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自治体コモンズとは

条例立案のあり方~乾杯条例を例として~(つづき)

2018/11/1

今回も引続きこのテーマで議論をいたしましょう。

条例の立案に際しては、「立法事実」としての①行政課題となっている社会的事実(事案の発生状況など)や②法的手段の妥当性(対象・手段の法的整合性など)が必要です。
2012年12月に成立した「京都市清酒の普及の促進に関する条例」を嚆矢として、近年、少なくない自治体で「乾杯条例」と呼ばれる条例が定められています(2017年現在で130団体以上)。
当初は清酒による乾杯の習慣を広めようとした条例の内容は、その後、焼酎やワインなど他のアルコール飲料やお茶や乳製品などのソフトドリンク、果ては素麺などの食品の積極的な消費を謳うものとなっています。
2000年の地方分権一括法の施行から20年近くが経過し、多くの自治体で行政課題の解決手段として条例の積極的な活用が行われてきました。
今回は、京都市条例の制定から5年以上が経過した「乾杯条例」を題材に取り上げて、条例立案のあり方について議論してみましょう。

1: くすのき

2018/11/06 15:56:00 乾杯条例について、否定的な意見があるようです。
その意見の趣旨は、どのようなものなのでしょうか?

2: bottom

2018/11/28 17:17:31 条例のイメージとしては、住民の権利義務に関わるものか、法律で条例で定めるとされたものを定めるという理解があるのではないでしょうか。
それからすると、単に、地元のお酒で乾杯しましょう!というだけのことであれば、わざわざ条例で規定するまでもないし、そんなことに議会の労力をかけるくらいなら、もっと他にやることがあるだろう、ということかなと。

3: bottom

2018/12/03 19:02:27 あと、お酒そのものが、未成年者の飲酒が禁止されるようなものであるのに、たとえ未成年者を対象としていないとしても、それを推奨するような条例を制定することの可否も問題点としてあげられる気がします。

4: ぷよぷよ

2018/12/08 18:57:42  権利を制限したり義務を課したりすることを条例の対象とする「重要事項留保説」に対し、乾杯条例は、自治体における重要事項まで守備範囲とする「重要事項留保説」によっているというように思えます。
 
 では、「乾杯」は、重要事項か?
 日本酒を始めとした地域の特産を振興するのであれば、これ自体を目的とすればよい。日本酒に限定するのば、特定の業種を対象とした偏った政策と批判される余地はないか(これは、自治体によってさまざまな例があるでしょう)。

5: ぷよぷよ

2018/12/08 19:04:04  また、「乾杯」という形式からみると、これは風俗慣習なのではないか。であれば、これを「法規範」たる条例で定めるのは適当ではなかろう、という意見はあるでしょう。

6: ぷよぷよ

2018/12/08 19:21:08  そもそも、「立法事実」はあるのか?
 ここで立法事実とは、(1)条例という法規範が制定されるべき根拠となる社会的事実、(2)その手法の妥当性です。

 条例の制定により担保されるべき「地域における特産物の振興」は存在するのか?また、「乾杯」という手段により、果たして特産物の振興は達成できるのか?
 これらを考えてみる必要はありそうです。

7: くすのき

2018/12/09 15:16:04 一方で、民意(議会)が条例とすべきと判断したものを、技術的な観点(だけ)から否定すべきなのか、否定できるのか、また、否定する意味があるのか、は十分に検討しなければならないと思います。

8: ぷよぷよ

2018/12/10 17:40:01 「乾杯条例」については、多くの自治体で制定が進んでいる状況で、執行機関、特に法制部門に戸惑いがあるのが現状ではないかと思います。

9: ぷよぷよ

2018/12/13 23:03:06 >民意(議会)が条例とすべきと判断した
この点、国の議員立法による「基本法」ブームも頭に浮かぶところです。
しかしながら、「基本法」は、縦割りになりがちな省庁を政策的に横断し、立法による政策誘導性の効果は認めるるものがあります。

翻って、「乾杯条例」は、条例制定自体が目的になっていないかが気がかりです。
ちょっと意地の悪い視点で言えば、乾杯条例を可決した議会の議員の皆さんは、実際に日本酒(あるいは、地元産のワインなど)で乾杯を行われているのでしょうか

10: ぷよぷよ

2018/12/13 23:06:23 -------------------------
 法令を作るにあたっては、それが本当に法令としてとりあげるのにふさわしい問題かどうかをよく検討して、その性質上、法令とすることに真にふさわしいものだけをその対象にとりあげるようにすべきである。道徳律や宗教上の戒律ないしは会社、組合などの規約にまかせてよいこと、まかせるべきものを、みだりに法令の分野にとりこむべきでないし、また、政治、政策の一般的方針にまかせるべきこと、行政措置、予算措置などだけで実行できるものをみだりに法令の対象にとりあげるべきものではないというべきであろう。
※林修三『法令作成の常識』(1964年、日本評論社)
-------------------------
 林修三氏は内閣法制局の局長でいらした方で、上記書籍は古いですが、今でも代表的な基本書ではあります。

11: ぷよぷよ

2018/12/13 23:07:00  最近の書籍からも引用しましょう。
-------------------------
 条例は自治の基本的なツールなのであって、「法」ということを強調するのは、古典的な議論であり、条例の活性化に水を差しかねないとの批判もある。
 条例の制定自体が目的化・シンボル化したり、意味の希薄な条例やおせっかいな条例が多発することになれば、条例の信頼性を揺るがし、結局、条例の法としての位置づけを掘り崩し、その有効性を減じることになりかねない。

川政司「自治立法のあり方と政策法務」北村喜宣、山口道昭、磯崎初仁・編『自治体政策法務』(2011年、有斐閣)398頁
-------------------------
 分権後の条例制定の展開を踏まえながらも慎重な意見の記述があります。

12: bottom

2018/12/19 11:09:50 法規範としての条例の位置づけの重要性はわかるのですが、議会が何かの政策を打ち出すのに、条例でないと、あるいは条例ぐらいしか、ニュースにならないという実態もあると思うんですが、、、。
まあ、そもそも議会が政策を考える必要があるのかどうかに争いがあるかもしれませんが。

13: ぷよぷよ

2018/12/19 22:22:15 >条例でないと、あるいは条例ぐらいしか、ニュースにならないという実態
 二元代表制の充実という点から考えると、それは「条例」でなくても良いような
 自主条例の制定を議会に期待する向きがあることは事実ですが、議会の持つ広範な役割の認識が広くあってもよいかな、と思います。

14: bottom

2018/12/21 11:42:47 条例以外だと、例えば意見書の採択とか宣言とかいったものですかね?
話が少し変わりますが、定期的な条例見直しをしている自治体だと、乾杯条例は廃止対象になりそうな気がしますが、何年くらいしたら廃止していいでしょうかね。

15: くすのき

2018/12/21 18:03:18 今でも法学部では、いわゆる「法規概念」で「法」を習っているのでしょうかね?
乾杯条例は法ではないと。

16: ぷよぷよ

2018/12/21 19:21:19 >定期的な条例見直しをしている自治体だと
 議員立法による政策誘導の観点から、乾杯条例を全く否定的にとらえる必要はないと考えることはできます。
 この点、ご指摘のとおり「見直し」の俎上に乗ることは意味があることでしょうね。
 どの程度の期間をおいて見直すべきか。これは、条例で定められる内容や、執行部における具体的な施策の実施によって変わってくるものでしょうが、実施計画との関係も踏まえて5~10年が一区切りであるような気がします。長や議員の任期を考えると、8年という単位もあるかもしれませんね。

17: くすのき

2018/12/25 14:43:54 乾杯条例の存在は示唆に富むと思いますね。やはり。
もてはやされている政策条例が、実は、ある視点からは「あの程度で条例になるのか」としか見えていないのかもしれませんよ。
そこで、「あの程度なら、私たちも作ってみよう。」の結果が乾杯条例なのかもしれませんね。
乾杯条例に全面的に賛成はできませんが、その対岸にある(と作った方たちは自負している)条例のあり方も見直す機会にしてはどうでしょうか。
少なくとも、最近の政策条例はロックオン方式(狙い撃ち)的なものが多いような気がします。一般性においては、乾杯条例が優れていますね。

18: bottom

2018/12/27 13:28:00 ロックオン方式的っていうのももう少し詳しく教えてください。
特定の業界の向けたものとか受けを狙ったものといった意味でしょうか?
国法では利益誘導的な立法はあまり見受けられなくなっていますが、一周遅れで条例の世界に利益誘導的な立法が興隆しつつあるのかもしれません。

19: ぷよぷよ

2018/12/28 20:18:09 >狙い撃ち
 乾杯条例については、岩﨑忠先生(高崎経済大学)が立法事実を論じる題材とされています。
「地方分権時代における条例立案のあり方について~「乾杯条例」を例にした立法事実の重要性~」http://www1.tcue.ac.jp/home1/c-gakkai/kikanshi/ronbun20-3/03iwasaki.pdf
 「狙い撃ち」については、以下のように記述があります。
----------------------
 条例立案には、行政の活動は、合理的な理由がなければ、差別的な取り扱いをしてはならないという平等原則が適用され、かつ、例えば、太陽光などの再生エネルギーの奨励のような公益性が求められる。つまり、清酒、焼酎、ワインなどの特定産品の普及促進、文化の継承に主眼をおく乾杯条例は、こうした平等原則、公益性という視点にあてはめ、十分な検討が必要である。

20: bottom

2018/12/30 14:39:28 i岩崎論文でも触れられていますが、規制条例と奨励条例とでは、求められる立法事実のレベルに差があるように感じます。奨励条例であれば、少々利益誘導的でも狙い撃ち的であっても良いってことは考えられないでしょうか。

今月のまとめ

2019/02/07

今回の議論では、「乾杯条例」を題材として、
・それぞれの債権の法的な性格は何か
・二元代表制の下で、議決の対象はどうあるべきか
を念頭に置かなければいけないことが分かってきたように思えます。 どのような債権を対象にするかは、条例を定めようとする自治体ごとの政策判断になるわけですが、これらについて説明ができるように、内部でしっかり議論を行うことが必要です。 なお、そもそも債権は自治体の財産であるわけですから(地方自治法237条1項)、債権管理条例が制定されていなくても、地方自治法及び同法施行令に基づき適正に管理されなければいけないことは言うまでもありません。

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