自治体相互の「連携・協力」を学ぼう
2016/3/1
◎前回のテーマ「マイナンバー法が施行!―自治体が直面する運用上の課題―」の『まとめ』を掲載いたしました。過去のコモンズからご覧ください。
地方分権の推進に伴い自治体の権限が拡大される一方で、各自治体の人的資源・財源は限られていることから、自治体相互の連携・協力が行われています。
従来、行われてきた手法は、地方自治法の基づく「組合」です。組合は、特別地方公共団体の1つで、「一部事務組合」と「広域連合」の2種類があります(自治法284条1項)。
その他の地方自治法に定める手法は、①連携協約、②協議会、③機関等の共同設置です。
①連携協約とは、複数の自治体が、その区域における事務処理の連携を図るため、協議により、基本的な方針や役割分担を定める協約のことをいいます(自治法252条の2第1項)。
②協議会とは、協議により規約を定め、事務の一部について共同して管理執行等を行うものです(自治法252条の2の2第1項)。
③機関等の共同設置とは、協議により規約を定め、共同して、議会事務局、附属機関、長の内部組織等を置くことをいいます(自治法252条の7)。
また、他の自治体の事務を処理する手法として地方自治法に定めるものには、④事務の委託、⑤事務の代替執行があります。
④事務の委託とは、協議により規約を定め、事務の一部を、他の自治体に委託し、その自治体の長や委員会・委員に管理執行させることをいいます(自治法252条の14第1項)。
⑤事務の代替執行とは、他の自治体の求めに応じ、協議により規約を定め、他の自治体の事務の一部を、当該他の自治体(その長や委員会・委員を含む)の名において管理執行することをいいます(自治法252条の16の2)。
ほかにも、都道府県は、知事の権限に属する事務の一部について、条例で定めることにより、市町村が処理することとできます(自治法252条の17の2第1項前段)。また、自治体間で民法上の委託契約を締結して事務を委託することや他の自治体を指定管理者に指定することもできます。
自治体相互の連携・協力には、様々な手段があり、また工夫があります。日頃疑問に思っていることの確認を行いながら、議論を通じて理解を深めて行きましょう。
1: ぷよぷよ
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2016/03/02 21:58:39
自治体の組合に、以前は、町村にだけ適用される「全部事務組合」「役場事務組合」がありました。これらと「一部事務組合」は、事務の協働処理方式の一形態という性格を有するものです。
しかしながら、全部事務組合は実質的に合併と同じ効果であり、執行機関において処理する事務一切を持ち寄る役場事務組合も、昭和34年10月以降は事例がなかったことから、平成23年の自治法改正により廃止されました。
一方で「広域連合」は、同種の事務の処理に限定される一部事務組合とは異なり、広域にわたり処理することが適当な事務であれば、異なる事務を持ち寄って処理することができます。
都道府県の加入する広域連合の長(又は理事会)は、議会の議決を経て、国の行政機関の長に対し、広域連合の事務に密接に関連する事務の一部をその広域連合が処理するよう要請することができるなど、広域連合は、権限移譲を強く意識した制度となっています。
このように、組合に関する制度の変遷を見ても、自治体の連携・協力については、時代の流れとともに地方自治に役割の変化が反映されています。
2: ぷよぷよ
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2016/03/02 21:59:10
一部組合で協働処理される事務の種別で、環境衛生(ごみ処理・し尿処理・上水道等)が最も多く、防災(消防・水防等)、厚生福祉(高齢者福祉・病院等)のほか、公平委員会、産業振興、教育、都市計画など、多岐にわたります。
広域連合で最も構成団体が多いものとして、長野県と県内全市町村で構成(78団体!)される長野県地方税滞納整理機構があります。
また、平成20年の後期高齢者医療制度の開始に際しては、高齢者の医療の確保に関する法律に基づいて、都道府県の区域ごとに後期高齢者医療広域連合が設けられました(その区域内すべての市町村が加入)。広域連合は地方公共団体ですから、その設置について関係団体の合意によらず立法によって行われたことに違和感を示す論調も見受けられました。
3: ぷよぷよ
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2016/03/03 23:00:05
私は基礎自治体の職員ですが、自治体相互の連携・協力として期待したいのが都道府県・市町村の関係です。
その手法の一つとして、知事権限を市町村に処理させる条例の制定がありますが、一部自治体の先駆的な取り組みが評価(?)されてか、地域主権改革一括法(第2次)の際に、基礎自治体への権限移譲について指針とされたのは記憶に新しいところです。
結果として住民福祉の向上につながるものであれば拒むべきものではないでしょうが、地域の特性など自治体固有の事情が十分に考慮されてのものであったのかは、当時、首をひねりました。
地方分権で住民に近い立場としての市町村の役割への期待が大きくなるのはわかりますが、これを市町村同士の水平的な補完ではなく、都道府県の事務としての垂直的な補完はどの程度可能であるのか、また、期待していくべきなのかは気になるところです。
4: bottom
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2016/03/06 16:42:31
事務処理特例条例や事務委託、事務の代替執行を活用して権限や事務の処理を、都道府県と市町村とで再配分し直すことに違和感はさほど感じません。
それは、市町村民は同時に都道府県民であり、自らが選んだ首長によってそれらの権限や事務が処理されることに違いはないからです。
しかし、A市の権限をB市が行使し、あるいは、C県の事務をD県が処理することは、非常に違和感を感じます。
5: ぷよぷよ
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2016/03/06 17:39:00
>市町村民は同時に都道府県民であり
なるほどなるほど。
ただ、川へだてて県境のような場合は、他県の基礎自治体との連携が望ましい例があるのですね。
また、冒頭の問題提起にも書かれていますが、県設置の公の施設について、市町村を指定管理者として管理させている例があります。
基礎自治体と広域自治体との連携というには、「民間事業者のノウハウを発揮し、施設の目的を達成する」指定管理者制度の本来の意図に添うものかは疑問があります。
基礎自治体間の広域連携が進むと、広域自治体としての都道府県の役割が変わっていくものか、個人的には興味があります。
※もちろん、起債の同意など広域自治体が引き受ける事務には揺るぎがないものがあるでしょうが。
6: 北法研 パピコ
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2016/03/07 20:17:48
ぷよぷよさま bottomさま興味深く拝見させていただいております。
私の所管事務で協議会設置のものがあります。
ある電算システムを協議会でサーバーを購入し、
付属の端末は各自治体の購入となりました。
契約金額が議会の議決が必要な額でしたが
協議会ですでに仕様等が決まっており議会説明が
難しいとの話を聞いたことがあります。
お二人を含めた、他の皆様でもけっこうですので
自治体間の協力、連携で法的な課題等に直面した辞令を
ごぞんじありませんか?
7: 北法研 パピコ
- 2016/03/07 20:19:13 すみません。事例です。(月曜日から居酒屋で飲んでます)
8: ぷよぷよ
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2016/03/07 22:28:03
>パピコさま
サーバーの購入ですか。いろいろ事例がありますね。
私の経験で協議会といえば「合併協議会」しかありません。
事例の「③機関等の共同設置」は、制度設立時には、専門性の充実のために議会事務局が例として挙げられていましたが、ちょっと前の調査では、事例がなかったように思います(今はどうかな?)。
これは、ローカルルールがあるばかりでなく、具体的な「政治」への対処を共同で行うことの困難さかもしれません(当該町村間に利害関係が生じた場合、どのように対処するか?)。
事例の「④事務の委託」と「⑤事務の代替執行」の違いは、当該事務の権限が受託団体に移るかどうかです。後に制度化された「⑤事務の代替執行」により権限が委託団体に残れば、連携の積極的な活用につながるだろうとの意図があるようです。
>月曜日
私が尊敬する某自治体の部長は、「飲み会を月曜日に設定すれば、憂鬱な週明けに楽しく出勤できる」とおっしゃってました(^^
9: 北法研 パピコ
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2016/03/08 23:05:43
ぷよぷよさま
さっそく事例のほうありがとうございます。
議会事務局については、先例等のローカルルールとともに
「政治」への対処を共同で行うのは難しいでしょうね。納得です。
⑤事務の代替執行についてですが、例えば、行政処分に関して
(行政処分の委託とかないでしょうけど)
④ですと、行政訴訟は委託先の自治体へ、
⑤ですと、行政訴訟は委託元の自治体
との整理でよろしいでしょうか?
10: 北法研 パピコ
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2016/03/08 23:22:03
bottomさまの
A市の権限をB市が行使し、あるいは、C県の事務をD県が処理することは、
非常に違和感を感じます。ですが、
「選挙で選ばれた長の執行機関としての役割を考えると」
行政組織としていかがなものかということでしょうか?
(競艇や競輪など特殊な事務に限るべき)
※質問ばかりでスミマセン。
11: bottom
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2016/03/09 21:57:17
そうです。
普段は全く関係のない近隣市の首長やその補助機関から、指導や注意を受け、さらには改善命令を予定しているから聴聞に来いと言われることに納得がいくかどうか・・・。
12: bottom
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2016/03/09 22:04:36
機関の共同設置というのは、「機関」は共同だけれども、「事務」は共同で処理するのではなく、それぞれの立場で処理するという理解をしているのですが、どうなのでしょう?
A市とB市で共同設置された議会事務局を例にとれば、A市議会の仕事をするときには、A市の議会事務局となり、B市議会の仕事をするときにはB市の議会事務局となって、それぞれの議会の先例等を使い分けて事務を処理していくのであって、A市議会事務局としての仕事をするときにはB市議会のことは脳内から捨て去ってしまうのだと思っていたのですが。
13: ぷよぷよ
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2016/03/10 21:15:04
>脳内から捨て去ってしまう
まあ、小規模団体では、総務部局と議会事務局の併任もありますからね(「双方代理」に類似する?
私の説明が適当でなかったかもしれません。政治云々というより、機関の広域性に伴う地域の意思の反映が十分に行われるか、という点が論点であるべきでしょうか(^^;
14: 北法研 パピコ
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2016/03/10 21:18:05
bottomさま
11のコメントわかりやすいです。
あと、12の機関の共同設置の整理もなるほどなと思います。
機関の共同設置ではありませんが、消防の119番指令センターを
複数の消防本部で運用しているところも増えています。
(千葉では20の消防本部が協議会を設立し共同で運用しています)
119番の受付ですと、おそらくA市の119番をB市の職員が受信しても
運用は同じになると思います。
(協議会ですのでA市、B市の区別もないのでしょうが)
機関の共同設置も、業務の性質に影響されるのではないでしょうか?
それとご存じの方がいらしたら教えていただきたいのですが、
A市、B市で議会事務局を共同設置した場合、
議会会議規則はA市、B市それぞれのものを使用するのでしょうか?
15: 北法研 パピコ
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2016/03/10 22:28:34
補足です
議会会議規則はA市、B市それぞれのものを使用するのでしょうか?
→議会事務局の職員はA市、B市それぞれの会議規則をもとに
議会運営のお手伝い等をするということでしょうか?
16: ぷよぷよ
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2016/03/10 22:40:49
>議会事務局の職員はA市、B市それぞれの会議規則をもとに~
お見込みのとおりです。
17: 北法研 パピコ
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2016/03/14 22:06:40
議会事務局の予算執行権は長ですよね。
共同設置の場合、規約でA市長かB市長を予算に関しては長とする
のでしょうが、予算編成等が難しい面はあるのですか?
また、議会事務局に限らず、共同設置や協議会に対して議会のチェックが
機能しない気がするのですが。
テーマの「自治体相互の「連携・協力」を学ぼう」からは外れますが・・・
(スミマセン)
18: ぷよぷよ
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2016/03/15 22:57:08
>議会のチェック
リクツの上では、既にbottomさんがお示しのとおり、「それぞれの団体のルールと予算」に基づき対処しているので差支えない、ということでしょう。
逆にいえば、個別の団体のために適切に組織が機能しているか、という点で議会のチェックがより働くべきといえるかもしれません。
19: ぷよぷよ
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2016/03/15 23:15:58
自治体間の連携・協力として、一番イメージがしやすいのは、冒頭に紹介はありませんが、「職員の派遣」かもしれません。
長や委員会・委員は、法律に特別の定めがあるものを除いて、事務処理のため特別な必要があると認めたときは、他の地方公共団体の長や委員会に対し、職員の派遣を求めることができます(自治法252条の17第1項)。
【平成27年度における東日本大震災による被災地方公共団体への地方公務員の派遣状況(平成27年10月1日時点)】http://www.soumu.go.jp/main_content/000399902.pdf
20: 北法研 パピコ
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2016/03/16 23:33:57
私の職場でも、すでに自治体間の連携の事務を行っています。
あらためて見てみたら、けっこう身近なものもありましたし、
連携協約にも手を挙げたところです。
自治体間の連携・協力ですが、いくらなんでもこれは連携・協力に
なじまないものはありますか?
私は行政処分に関してはそれぞれの自治体で行うべきと考えています。
21: ぷよぷよ
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2016/03/21 23:48:06
>連携・協力になじまないもの
反対に、「なじむもの」から検討してみましょうか。
まず、消防やごみ処理など多大の設備投資や効率化を図るための広域連携として、一部事務組合が活用されています。
また、介護保険やこのたび法改正された行政不服審査に関する対処など専門性が要求されるものも広域連携の事例は多いようです。
徴収部門も、地域に近い立場ほど厳しい対応は難しいとも聞きます。
では、「なじまないもの」とは何かを考えると、これらと逆の観点から、住民自治組織対応や、企画・財政などの政策部門が挙げられるかもしれません。
議会事務局の広域化が進まないところもそんな理由があるのかな?(専門性の要請はあるでしょうが)
22: ぷよぷよ
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2016/03/21 23:55:40
>私は行政処分に関してはそれぞれの自治体で行うべきと考えています
これは難しいですね(^^
リクツの上ではそうかもしれませんが、法律が要請する「住民に近い事務」として市町村の仕事が増えてきている現状はあります。
不足する人的資源と財源でどのように対処するかは、工夫のしどころです。
連携・協力にしても、組合での対処や委託・代替執行のように他の団体に運営を任せてしまうものから、機関の共同設置のように事務処理だけを持ち寄る例もあります。
対象となる案件ごとに、行政のミッション(使命)を考慮の上で検討すべきでしょう。
23: 北法研 パピコ
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2016/03/23 18:57:52
ぷよぷよさま ありがとうございます。
<対象となる案件ごとに、行政のミッション(使命)を考慮の上で検討すべきでしょう。
そのとおりと思いますが、連携について行政のミッションが住民福祉の向上ではなく、
財源等の問題から効率化を優先する方向に行くような気がします。
(小規模自治体から大規模自治体への連携)
いままで無いなら無いなりに乗り切り、ときには画期的な施策も生まれてきた
良さもあったかと思いますが、安易な連携はそのような下地をなくしてしまいそうで・・・
安易な連携によりその土地の良さとか、職員のモチベーションが下がらないか
危惧しております。
24: ぷよぷよ
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2016/04/10 23:56:47
>安易な連携により
指定管理者による施設の民間運営についても、同様のことが言われますね。
ただ、「自前主義」であることと、実施事業の充実は必ずしも一致しないように思われます。
※要は、「住民福祉の充実」をどのように達成するかでしょう。
であれば、「絶対譲れないものは何か」「他自治体との連携を行ってでも、事業の効率性や専門性を達成したいものは何か」「積極的に連携を行うべきものは何か」のグラデーションをそれぞれの自治体で検討すべきでしょうね。
25: ぷよぷよ
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2016/04/11 00:04:25
ちょっと事例は異なりますが、現在唯一の財政再建団体である夕張市で活躍される鈴木市長は、東京都から派遣された職員でいらっしゃいました。
地域の連携に起因して、政治的に大きな変化が起こる局面もあるのだな、と思いました。
今月のまとめ
2016/5/24
今回は、自治体相互の「連携・協力」を取りあげました。
「連携・協力」には、水平の関係(都道府県間、市町村間)、垂直の関係(都道府県と市町村)によるものがあります。その手段としては、冒頭の解 説で触れられたようにいくつもの手法があります。それぞれの目的や効果が検討されてのことですが、一方で、目的や効果に応じた手法のベストマッ チングの選択に悩むところでもあります。
議論の中では、事務を共同で行う際にどのようなルールに基づいて行われるのか、また、「連携・協力」になじむもの・なじまないものについてのや り取りがありました。
「連携・協力」の積極的な事例として大規模な設備投資を伴うもの(消防、ごみ処理など)や専門性が要求されるもの(介護保険、行政不服審査な ど)が挙げられ、消極的な事例としては住民自治組織対応や企画・財政などの政策部門が挙げられました。
自治体の達成すべき目標が、何より住民福祉の増進(自治法1条の2第1項)であることはいうまでもありません。一方で地方分権の推進に伴い、業 務が拡大・充実する中、限られた人的資源・財源を効果的に活用する手段の検討も求められています。また、そもそも、市町村(基礎自治体)単位で 行うよりも、もっと、広域で行うことが適切だと考えられる事務もあるのではないでしょうか。
今回の議論の展開中に熊本地震が発生しました。職員の派遣を含め、全国の自治体から現地への支援が行われています。自治体は地域に密着するもの ですから、逆にいえば、隣接・遠方それぞれの立場における「連携・協力」については常に意識されるべきといえるでしょう。