自治体債権の課題
2016/9/9
「債権」とは、人に対する権利です(物の対する権利は「物権」といいます。所有権などです。)。主に、金をもらう権利(金銭債権)を意味します。自治体において も、債権といえば、ほぼ金銭債権を指します(自治法240条1項)。
自治体の債権は、
Ⅰ 滞納者の意思に関わりなく強制的な徴収を行う滞納処分ができるかどうか(自治法231条の3第3項)・・・滞納処分基準
Ⅱ 納期限までに納めないときに徴収される延滞金が徴収できるかどうか(同条2項)・・・延滞金徴収基準
Ⅲ 時効(5年)により自動消滅するかどうか(同法236条1項及び2項)・・・自動消滅基準
の三つの基準で分類・管理されます(「債権管理3基準」)。
滞納処分、延滞金徴収、時効による消滅は、いずれも、自治体における債権管理の基本的なしくみであり、自治法にそれぞれ固有(専用)の根拠条文があります。自治 体の債権管理は、徴収(滞納整理)の問題に集約されます。適切で効果的な債権管理(徴収)を行うためには、①強制徴収の可否②延滞金徴収の可否③消滅時効の期間 と要件についての正確な理解が欠かせません。
自治体債権に関する課題について議論しましょう。
1: くすのき
-
2016/09/12 10:14:01
上記にあるように、債権管理は、「滞納処分基準」、「延滞金徴収基準」、そして、「自動消滅基準」と主に3つの観点から分類されますよね。
まず、、滞納処分ができる債権、つまり、裁判所の力を借りなくても差し押さえができる債権には、どんなものがありますかね?
2: オリン
-
2016/09/13 11:50:10
大きく分類すると
地方自治法 第二百三十一条の三 3
分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入
及び
第二百二十三条
地方税
だけだと思います。
法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入の中にはいろいろありますよね。
3: くすのき
-
2016/09/16 11:57:13
この「法律で定める」とは、地方自治法の附則第6条の規定のことですよね?
4: ぷよぷよ
-
2016/09/17 23:45:42
地方自治法の附則第6条の規定に定めるものとは、以下のものですね。
1 港湾法の規定により徴収すべき入港料等
2 土地改良法の規定により土地改良事業の施行に伴い徴収すべき清算金等
3 下水道の規定により徴収すべき損傷負担金等
4 漁港漁場整備法の規定により徴収すべき漁港の利用の対価等
その他個別の法律で強制徴収の規定を置いているものとしては、
1 国民健康保険料(国民健康保険法79条の2)
2 道路占用料(道路法73条)
3 有料道路の料金(道路整備特別措置法45条)
4 河川使用料(河川法74条)
5 土地区画整理事業の清算金等(土地区画整理法110条)
がありますよね
5: ぷよぷよ
-
2016/09/17 23:54:19
わからないのが、自治法231条の3第3項の「使用料」に何を含むかかなのです
水道使用料は、公の施設の使用に関するものであると思うのですが、強制徴収の対象にならないのでしょうか?
※公営企業の「料金」であるから? それでは、公営企業で下水道料金を管理している場合は?
6: 龍
- 2016/09/18 11:31:21 水道使用料(多くの自治体では、水道料金といっていますが、水道法に料金と明記されているため?)の根拠法である水道法や地方自治法に強制徴収の根拠条文がないため、自力執行権はなく、民事訴訟手続を経た上で、裁判所に強制執行を求める債権であると判断してます。
7: 龍
- 2016/09/18 12:26:25 下水道料金(下水道法では使用料)は、地方自治法附則第6条に強制徴収できる根拠条文があるため、公営企業(公営企業法にある管理者)が管理する債権は、地方公共団体の長が管理する債権を担任(公営企業法第9条)している債権であるため、強制徴収できる債権であると判断してます。
8: ぷよぷよ
-
2016/09/19 21:00:23
>龍さま
ありがとうございます。
水道料と下水道料金の取扱いは、実務者としては戸惑うところがあるのですけれど、田中孝男先生(九州大学)が、水道料金の時効を2年とした判決を踏まえ、「公衆衛生の観点から下水道は公共性が高いといえるので、裁判になっても水道料と同様の判決が出るとは限らない(大意)」と書かれていたことを思い出しました。
9: 龍
-
2016/09/19 21:52:45
>ぷよぷよさん、こちらこそ情報提供ありがとうございます。
同じような、公衆衛生をしている農業集落排水処理施設や漁業集落排水処理施設も公の施設で、その料金は、地方自治法で規定されている使用料ですが、強制徴収できる根拠規定がないため、滞納処分できない債権のようです。
10: くすのき
-
2016/09/20 13:30:19
自治法231条の3第3項は法律で定める「使用料」ですね。
これは、使用料を定義しているのではなく、強制徴収の根拠を自治体に置くための「規定ぶり」だと思いますよ。
使用料をターゲットにして、それを強制徴収できるものとできないものに区分しているわけではないのではないでしょうか。
強制徴収すべき債権群があって、その定義を考えていたら、「たまたま」、「法律で定める使用料」と規定できた・・・?だと思うのですが・・・。
11: 龍
-
2016/09/21 08:23:34
>くすのきさん
誤解させてすいません。
地方自治法第225条に規定する使用料のつもりで記載しました。
12: 龍
- 2016/09/21 08:29:06 滞納処分ができるかどうかは、各債権の根拠とされる法律に強制徴収できる規定があるかどうかで判断すると考えています。
13: ぷよぷよ
-
2016/09/21 23:03:42
なるほど。
自力執行(裁判所の手続きに基づかず、自ら徴収行えること)の可否は、公債権としての性格と単純に表裏というわけではなく、あくまで個別の規定によるということなのですね。
14: くすのき
- 2016/09/23 09:03:22 ぷよぷよさんのいう「公債権(といして性格)」とはどのようなものですか。
15: ぷよぷよ
-
2016/09/25 22:21:42
「公債権(としての性格)」イコール「公法に基づく債権」であればわかりやすいのですが、そうでもないようです。
「改訂版 自治体のための債権回収Q&A」(第一法規)では、「公債権」「私債権」について「おおむね次のような特徴があります」としています(6~7頁)
【公債権】
・債権の成立
賦課決定(不服申立て可)
法律による行政側の処分行為
・強制徴収、強制執行
行政限りの強制徴収又は裁判所による強制執行
・債権の消滅
時効により消滅する
時効の援用は要しない
時効の利益は放棄できない
【私債権】
・債権の成立
契約(合意)行為
・強制徴収、強制執行
裁判所による強制執行
・債権の消滅
時効経過しても債務者からの時効援用を要する
時効の利益を放棄して支払うことができる
債権者からは権利放棄して消滅させることができる
ただし、同書は、また「公債権、私債権といっても定義が難しく、公債権と私債権は、個別法令、判例、行為形式、債権の性質などを勘案して判断します」としています(2頁)。
冒頭の疑問に戻れば、公権力の行使としての性格が強いものが「公債権」ということになるでしょうか。
16: ぴょん
- 2016/09/27 07:45:05 ということは、公債権と私債権の区分は、簡単ではないということですよね!?
17: くすのき
- 2016/09/28 10:31:18 というよりも先験的に公債権、私債権などというものは存在しない、もっと端的に言えば、「存在しない」のではないですか。自治法にも規定はありません。
18: くすのき
-
2016/09/28 12:41:44
時効により消滅する債権のうち、強制徴収できる債権は、税や保育料などわずかです。
公営住宅、病院、水道以外の公の施設の使用料は時効により消滅します。
この点において、15で引用されている「公債権」の定義は、「?」というか「不必要」なのではないでしょうか。
19: ぴょん
-
2016/09/29 07:03:11
たしかにそうかもしれませんね。
・強制徴収ができるのか
・延滞金は取れるのか
・時効の期間はどうなるのか、援用が必要か
など、それぞれ性質が異なるので、「私債権」「公債権」という区分は、意味がないということですかね?
20: くすのき
-
2016/09/30 05:37:25
少なくとも、法律上の区分ではないということは間違いないですね。
債権の管理を考える上で、適宜、用いられる業界用語のようなものですね、
ですから、人によって、意味がちがいます。
私は、誤解を生みやすいので、使わない方が良いと考えます。
21: くすのき
-
2016/09/30 05:46:09
強制徴収できる債権、できない債権
時効の完成だけで消滅する債権、しない債権
延滞金を徴収しなければならない債権、徴収できない債権
それぞれ、法律の根拠と対象範囲が異なります。
関連性はありません。
公法私法を用いると、3つの基準が一つになってしまいます。
22: くすのき
- 2016/09/30 05:47:53 その結果、時効消滅しない水道料金に延滞金が徴収できないという誤りが起こるのです。
23: ぴょん
-
2016/09/30 06:47:23
そういえば、水道料金は私債権だから、料金について審査請求できないけど、下水道料金は公債権だから、審査請求ができる、というような話も聞いたことがあるような気がします。
公の施設の使用料の賦課という処分であるのは、同じはずですよね?
24: くすのき
- 2016/09/30 09:35:03 それでは、私の考えでは私的だから、法律の規定は無視しても良い、ということになってしまいますね。
25: くすのき
-
2016/09/30 12:35:03
24は、ぴょんさんが、引用しした考えについてのものです。
私も処分だと考えます。
26: ぴょん
-
2016/10/04 06:56:17
ということは、水道料金も下水道料金も、基本的な性質は変わらないということになりますね。
ただ、下水道料金は滞納処分の例による強制徴収ができる点が異なりますね。
そういえば、水道料金の消滅時効は2年とされていますが、下水道料金は5年ですか?
27: ぷよぷよ
-
2016/10/11 00:26:06
下水道料金は、公の施設の利用料なので、消滅時効は「5年」と解されます。
既に説明があったように「強制徴収されるから『公債権』なので5年」という考え方ではなく、むしろ、水道料の「2年」が判決に基づくイレギュラーなものでしょう。
もちょっと説明すると、下水道料金について最高裁判所の判決は出ていませんから、判決の結果で2年と解される余地はあります。
ただし、下水道料金は、水道料に比べて公衆衛生の点からより公益性が認められることから、時効の判決が水道料と同様のものとなるかはわかりません。
28: ぷよぷよ
-
2016/10/11 00:30:55
公・私の関係から時効について懸念されるものについて、保育所の保育料の問題があります。
保育サービスの提供について、公立保育園と私立保育園に違いをどれだけ認められるかが難しいからであるからです(公立病院と私立病院の債権に関する判決を参照)。
上記は、田中孝男先生のご指摘ですが、子ども子育て支援法施行後においては、より区分が困難でなっているといえるのではないでしょうか。
29: くすのき
-
2016/10/12 15:05:26
ぷよぷよさんの問題提起について。
私は、そもそも、「住宅、病院、水道」についての判決等の趣旨を他の債権に引用すべきではないと考えます。
30: ぷよぷよ
- 2016/10/12 23:56:16 それでは、私達は、債権の管理について、何を基準に考えれば良いのでしょうか?
31: ぴょん
-
2016/10/13 06:55:19
少し話は戻りますが、水道料金は、「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権」(民法173条第1号)に当たることから、消滅時効が2年だったような。
とすると、下水道料金は、ちょっと性質が違うような気がしますね。
ただ、保育料については、公立と私立で違いを整理するのは、難しいかと…
32: ぷよぷよ
-
2016/10/13 20:43:49
body
失礼しました。田中孝男先生のご記述を当たったところ、比較しているのは、公立・私立の保育園ではなく、保育料と民間託児所の利用料金についてでありました。
お詫びとともに訂正させていただきます。
ご参考まで、田中孝男先生の記述を引用させていただきます。
-----------------------
最高裁は、先に述べた公立病院の診療について、「私立病院で行われている診療と本質的に差異ははなく」と述べて、民間の行為と変わらないことを、時効規定を決する際の重要な理由付けとしている。そうであれば、例えば保育料(児童福祉法56条によって強制徴収ができる)も、民間の保育所に預けたときの利用料金と本質的に変わらないとして、時効については、民法が適用されることになるかもしれない。
「条例づくりのための政策法務」(第一法規)101頁
-----------------------
33: ぷよぷよ
-
2016/10/13 20:44:09
なお、上記の書籍の刊行後に施行された「子ども・子育て支援法」に基づき、現在では、公立保育園については「施設使用料」、私立保育園については「負担金」となります(「子ども・子育て支援法」附則6条)。
負担金であれば、その時効は5年でしょう。
34: ぴょん
- 2016/10/18 06:59:36 ということは、公立保育所も私立保育所も、保育料の時効は5年ということですね?
35: くすのき
-
2016/10/19 17:06:56
「30」について。
自治法に、それぞれれ、規定がありますよね。それを素直に各債権に当てはめればよいとおもうのですが。何の紛れも欠けもありません。
例えば、「使用料は延滞金が徴収できる」(自治法231条の3第2項)と規定されているのに、「私法」、「公法」などという価値や考えが介在するのでしょうか。
36: オリン
-
2018/04/23 09:31:50
旧地方自治法225条では、「延滞金が徴収できる債権」=「滞納処分ができる債権」=「自動消滅する債権」でした。事柄の性質上、たとえ営造物の利用の対価であっても、225条の対象となりうるのは、公法上の収入だけであり、私法上の収入は対象とならないという解釈(学説、国、裁判)がなされていました。
公法上、私法上について、論争がありましたので、一括して強制徴収なしうるという規定から、個別列挙されたものだけが強制徴収なしうるという、現行231条の3に改められました。
しかしながら、立法政策で解決されたのは、「強制徴収」だけで、延滞金や消滅時効については、なお、曖昧なまま取り残されているというのが現状です。
今月のまとめ
2016/11/04
債権管理の課題について議論してきました。
自治体の債権管理には、
Ⅰ.滞納処分ができるかどうか(自治法231条の3第3項)・・・滞納処分基準
Ⅱ.延滞金が徴収できるかどうか(同条2項)・・・延滞金徴収基準
Ⅲ.9時効(5年)により自動消滅するかどうか(同法236条1項及び2項)・・・自動消滅基準
の三つの基準があります。
このうち、Ⅰの「滞納処分」ができる債権については、「国税徴収法の例により」という規定の有無で明確になります。しかし、ⅡとⅢについては、公の施設の使用料 である水道料金、公営住宅家賃、診療費、そして、保育料などの自治体がサービスの対価として得る債権に関して、自治体ごとに見解が分かれているようですね。いず れにしろ、債権の基本法である民法と民法の特別法に位置づけられる地方自治法(及び地方自治法施行令)によって自治体の債権管理が行われていることは間違いあり ません。例えば、国の債権の消滅について、以下の規定があります。
債権管理事務取扱規則(大蔵省令)
(債権を消滅したものとみなして整理する場合)
第30条 歳入徴収官等は、その所掌に属する債権で債権管理簿に記載し、又は記録したものについて、次の各号に掲げる事由が生じたときは、その事の経過を明ら かにした書類を作成し、当該債権の全部又は一部が消滅したものとみなして整理するものとする。
一 当該債権につき消滅時効が完成し、かつ、債務者がその援用をする見込があること。
(以下略)
この規定があるため、自治体でも規則などで債権を消滅させることができると考えている自治体職員がいます。しかし、この省令は、不納欠損処理の根拠にとどまり、 債権を消滅させる効果はないと考えられます(あくまでも「消滅したものとみなして整理する」もので,債権を消滅させるものでも債務を免除するものでもありませ ん)。
この例を含め、このコモンズでの議論を機に、法令の解釈に誤解がないかどうか、ていねいに確認してみましょう。