法制執務の功罪
2017/8/22
「法制執務」と呼ばれている条例や規則についての書き方・読み方の事実上のルールが自治体にはあります。例えば、法律や条例(法令)の条文で市町村の許可につい て定める場合、「市町村は、」ではなく「市町村長は、」許可する旨が規定されるのが一般的です。これは、市町村の執行機関のうち、法的権限を行使する主体を明ら かにするため、執行機関を指定しているわけです。法令は、事務の主体(国か、都道府県か、市町村か)だけではなく、権限の主体(何大臣か、知事や長か、教育委員 会かなど)まで指名するという決まりがあります。これには、国民や住民の意思で法的権限を行使する責任者をはっきりさせるという意義があります。しかし、相対的 に少数ですが、「市町村は、○○する。」という規定もあります。この違いにはどのような意味があるのでしょうか。
今回は、細かくて苦手な方も多いと思われる法制執務のルールについて、考えていきましょう。
1: ぷよぷよ
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2017/09/10 18:42:29
「市町村は」「市町村長は」の違いについて、自治法14条と15条を比較しましょう。
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第14条1項
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
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第15条1項
普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。
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条例を制定するのは「都道府県・市町村」であるのに対し、規則を制定するのは「都道府県知事・市町村長」です。
なお、条例については自治法96条1項1号で、これを設け又は改廃することは、議会の議決事項とされています。
2: ぷよぷよ
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2017/09/10 18:43:21
施策に関する「〇〇基本条例」で、関係者(機関)の責務規定を設ける場合、
・市の責務
・事業者の責務
・市民の責務(「役割」とする場合も)
と設定されるのが一般的です。ここで「市長」ではなく「市」と書かれるのは、執行機関としての市長だけでなく、地方公共団体としての「市」の役割を定めるものであるからです。
これに対し、個別具体的な「計画の策定」「指導・勧告の実施」などは、執行機関の役割として「市長」が主語になります。
3: jichiemon
- 2017/09/11 18:06:39 主語の違いには、そのような使い分けがあったのですね。「市の責務」とあった場合は、団体として果たすべき役割があると考えればよいのですね。
4: くすのき
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2017/10/04 15:56:05
市の役割は結局、どこかの執行機関の役割になりますから、結局「市」という標記は不要であるとも考えられます。
「市」、「市長」で意味があるのは、契約などの権利義務の主体をあらわす場合です。当然、「市」ですね。
今月のまとめ
2017/10/31
「法制執務」というルールによって自治体における例規が創られ、また、解釈されていることは事実です。よって、私たちが法制執務を学ばなければならないことには 間違いはありません。一方で、法制執務はあくまで、条例や規則などについての書き方・読み方の事実上のルールにすぎません。慣習によって引き継がれてきたもので す。また、法制執務は、 契約や行政処分についての考え方などの法務の「本体」でもありません。
このように、法制執務の内容は、そうでなければならない必然的な理由づけ(法的な考え方)が存在しません。よって、「とにかく覚える。暗記する。」という学び方 になってしまいます(そもそも、法制執務の対象である「例規」や「規程」にも明確な定義がないのです。)。
私たち自治体職員は、
①法制執務は自治体法務を支える技術として必要なものであること。
②法制執務は法務そのものではなく、また、法制執務の能力自体が法務能力ではないこと。
を理解しておかなければなりません。