「財産(公有財産)管理」
2015/03/02
自治体の「財産」は、公有財産(不動産、有価証券など)、物品(備品、消耗品など)、債権に分類されます(地方自治法237条1項)。
「公有財産」のうち「行政財産」には、自治体がその事務または事業を執行するため直接使用することを本来の目的とする「公有財産」(庁舎、議事堂など) と、住民の一般的な共同利用に供することを目的とする「公共用財産」(道路、学校、公園など)があります。これに対し、行政財産以外の一切の公有財産を 「普通財産」といいます(地方自治法238条4項)。
さて、自治体が自主財源の確保に向けて、庁舎内に自動販売機を設置する際に事業者からその対価を求める例が多くなりました。その取扱いは、(1)行政財産 の目的外使用による場合、(2)行政財産の一部貸付による場合、の2つが主なものですが、これらの考え方と取扱いの効果はどのように異なるのでしょうか。
また、最近では、限られた財源で効果的な行政運営を行う必要がますます求められている中、公の施設など(老朽化を迎えるものも少なからずあります)の公 共用財産について、そのあり方やマネジメントの手法が問われるようになっていています。
今回の自治体コモンズでは、自治体の財産(公有財産)管理について、法的な側面から検討してみましょう。
1: ぷよぷよ
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2015/03/04 23:46:42
公有財産というと役所の所有物すべてという印象がありますが、バスやゴミ箱は「物品」です。公有財産のうち馴染みの少ない有価証券はさておいて、最初に思いつくのは土地や建物などの不動産でしょう。
ところが、「行政財産」「普通財産」の線引きで悩む方は少なくないのでしょうか。
道路を建設するために購入した土地で、道路敷地部分は行政財産です。一方、元の地権者から購入しながらも敷地に付随する残地は「普通財産」としての管理になります。
上記のように「敷地か否」かで明確に線引きできる場合は理解しやすいですが、特定の建物がどちらの性格かとなると、個別の判断が必要です。
左のアンケートに取り上げた「直売所」「道の駅」について、ちょっと考えてみましょう。
2: 北法研 パピコ
- 2015/03/06 21:07:37 直売所や道の駅を管理するのに、住民が広く利用する性格なら公の施設、役所が主に使用するなら行政財産ですか?漠然としかわかりませんのでどなたか解説をお願いします。
3: くすのき
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2015/03/09 13:00:00
①公共用財産(≒公の施設)②公用財産③普通財産に3区分して土地や建物を管理することになっています。
趣旨は、それぞれ。
①住民利用
②役所のオフィス
③使っていない、あるいは、役所本来の仕事用ではない
ですよね。
直売所等は①か③であり、②ではないと思いますがね・・・。
①は条例で設置する(管理のルールが条例事項)なので、③に流れがちですが(笑)。
4: bottom
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2015/03/10 00:39:11
①と③の線引きは難しい気がします。
例えば、道の駅に隣接している普通財産である土地を、当面買い手もいないので、主に道の駅の利用者が利用することを想定して(でも、必ずしもそれ以外の者でも良いとして)、駐車場として使用することを条件に、道の駅の管理をしている地元の自治会などに、低額で貸し付けるといった場合には、これは、本来は、行政財産とすべきなのでしょうか。
5: くすのき
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2015/03/12 14:54:00
用途を指定せずに貸しているのなら、借りた側の使い方によって財産の区分が変わるというのはおかしいと考えます。普通財産だと考えます。
また、貸す用途を明確に指定しているのなら、それは設置目的と使用方法を持っているので公の施設になると考えます。
6: ぷよぷよ
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2015/03/12 21:48:00
>貸す用途を明確に指定しているのなら
「公の施設」とは、「住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設」ですよね(自治法244条1項)。
もっぱら住民を対象とせず、観光客など他自治体からの訪問者を対象にする施設は「公の施設」ではないと思います。それでも、特定の行政目的を達成しようとするのであれば、「行政財産」ではないでしょうか。
7: bottom
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2015/03/15 21:43:16
公の施設でもない行政財産ということにしてしまうと、その駐車場の用地を、転貸しを前提に、一私人(団体)に、目的外使用許可することは、非常に難しいのではないでしょうか?
また、公の施設としてしまうと、空き地を一時的に有効利用し、買い手が見つかればすぐに売り払うということができなくなってしまうのではないでしょうか?
行政財産の貸付制度の更なる拡充を待つしかないような気がします。
8: ぷよぷよ
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2015/03/16 01:32:33
>駐車場の取り扱い
道の駅と併せて行政財産とした上で、管理業務委託を行わせる手法で対処が可能ではないでしょうか。
行政財産であれば、(使用の目的変更を含め)必要が生じた際に機動的に対処できます。
9: くすのき
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2015/03/17 10:18:48
確認しておきたいのは、「行政財産=行政目的を持った財産」ではない、ということです。法令用語は固有名詞です。「辞書読み」は厳禁です。普通財産が「普通の財産」ではないでしょう。
行政財産とは、庁舎等を指します。裁判例でも観光施設を公の施設として位置づけないのなら、普通財産になるとされています(倉敷市のチボリパークに関して。)
10: bottom
- 2015/03/17 22:44:30 なるほど。つまり、供用開始という言い方が良いのかどうか判りませんが、その財産を「行政財産」とすると決めたものが「行政財産」で、そうではないものが「普通財産」ということでしょうか?
11: くすのき
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2015/03/20 09:48:31
あえて、外延を示すなら、行政財産とは行政〔執行〕のために用いる財産、ということではないでしょうか。
庁舎、出張所、支所、事務所。
論点を明確にするために、あえて言えば、直営している保育所は公の施設ですが、保育所という事業所(事務分掌規則上の)という観点から見れば、(公の施設ではない)行政財産であるという「見方」も可能かと思います。
あくまで、結論としては公の施設ですが。
12: くすのき
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2015/03/24 14:43:28
実態的な面から評価すると、施設(土地や建物)の管理事項は主に①許可(契約)条件、②使用料(貸付料)③減免の3つがありますが、
これらについて
A公の施設は、①、②、③のすべてが条例
B行政財産は、②、③が条例
C普通財産は、③のみ条例
で規定することになります。
実際には、Bの②及びBとCの③については、通則的な条例「(目的外)使用料及び減免条例」がありますから、条例制定は不要ですね。
13: 北法研 パピコ
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2015/03/29 19:16:14
質問よろしいでしょうか。
普通財産を同一自治体内で貸し付ける場合減免の手続きは必要でしょうか?
(市道に防火水槽を設ける)
14: くすのき
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2015/03/30 09:38:20
同一、自治体内であれば、機関同士のやりとりなので「契約(人と人との約束)」という概念がなじみませんね。
実際には、会計が異なれば、契約類似の行為はすると思いますが。
15: くすのき
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2015/03/30 14:51:09
普通財産については、市町村合併等で未利用地が増えていますね。そこで、有効活用が課題となっています。
しかし、安易な貸付はできません。
なぜなら、貸し付けた普通財産が必要となったときは、補償が必要だからです(自治法238条の5第5項)。
また、建物用地として土地を賃貸した場合、借地借家法では、契約期間が30年以上になります。
ですから、ほぼ半永久的に行政財産として利用する見込みがない土地(普通財産)でないと、建物用地として賃貸することはできないと考えます。
16: 北法研 パピコ
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2015/04/02 19:23:11
パピコは競艇場によく行きますが、競艇場を行政財産としている自治体と普通財産としている自治体がありますが、同じ施設なのに自治体の判断が分かれるのはおもしろいですね。
9のくすのきさんにあるとおり、行政財産は~とすると普通財産になるのかなと思いますが、競艇場を行政財産としている理由は競艇場は収益をあげるための行政目的をもった施設との位置づけと思いますが、もう一度競艇場を例に財産管理についてご解説いただけませんか?
17: くすのき
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2015/04/03 09:03:53
①公共用財産(≒公の施設)②公用財産③普通財産に3区分して土地や建物を管理することになっています。
趣旨は、それぞれ。
①住民利用
②役所のオフィス
③使っていない、あるいは、役所本来の仕事用ではない
ですよね。
競艇場を行政財産とする理由はないように考えます。
(実際には、補助金を獲得する際に「普通財産ではダメ」と指示されているのでしょうが・・・)
再論しますが、行政財産は「行政目的を持った財産」ではないです。
そうであれば、普通財産はは存在しないことになります。
行政財産と普通財産とでは、売店等に施設の一部や敷地内を使用させる場合に違いがでてきますね。
18: 北法研 パピコ
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2015/04/03 19:18:29
行政財産→目的外使用許可→使用不可→不服申し立てできる
普通財産→貸付(契約)→使用不可→不服申し立てできない
でしょうか?
あと使用料の滞納で違いは出てきますか?
19: くすのき
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2015/04/07 15:42:39
>行政財産→目的外使用許可→使用不可→不服申し立てできる
>普通財産→貸付(契約)→使用不可→不服申し立てできない
そうですね。普通財産は、契約で貸し付けますから行政処分ではなく、不服申立てはできませんね。
行政処分によって発生した債権であるかどうかと滞納処分ができるかどうかは全く別問題です。本来的な意味での行政処分(不利益処分など)と違って、貸付などの受益的な処分は、契約でも権利や義務の設定が可能であるにもかかわらず、政策的な観点から行政処分が取り入れられているものです。
行政財産の使用料も普通財産の貸付料もどちらも滞納した場合、滞納処分はできません。
20: 北法研 パピコ
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2015/04/07 22:51:40
行政処分と債権の滞納処分はリンクしていないのですか?
行政処分と債権の滞納処分は=の関係にあると思っていましたが・・・
処分の性質によって、滞納処分できるかどうかも検討しないといけないのですね。
時効の援用も同じですか?
21: くすのき
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2015/04/08 15:27:29
事項の援用の要否も行政処分か契約かとは別問題ですね。
債権そのものの性質によって要否が決まります。
公営住宅以外はいずれも時候の援用は不要です。
22: bottom
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2015/04/16 00:48:11
話が少しずれますが、リード文にあるように、最近、行政財産の一部貸付という制度ができました。
公の施設についても一部貸付をすることはできるのでしょうか。
例えば、公の施設として大小のホールを整備したところ、年月の経過とともに使われないスペースが生じた場合に、それをどこかの団体に事務室として貸し付けることはどうでしょうか。
施設の有効利用になると思うのですが。
なお、そのスペースを占有されても公の施設としては支障がありません。
23: くすのき
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2015/04/16 17:08:23
法的には、「行政財産」としての制度であれば、公の施設も行政財産であるので、できると考えます。例えば、目的外使用許可制度も公の施設に適用になります。それは、公の施設としてではなく、行政財産としての目的外使用許可です。
しかし・・・・。
庁舎のような行政財産であれば、事務所ですから、組織の縮小に伴い「空スペース」が生じることが考えられます。
しかし、「公の施設の空きスペース」など考えられない、というより、意味として通じないのではないでしょうか。市民への共用部分が使用されなくなれば、それは、もはや「公の施設ではない。」と整理して、普通財産に区分されるべきだと思います。
24: bottom
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2015/04/16 20:17:55
なるほど。
そもそも、行政財産として必要がないのであれば、速やかに、普通財産に落とすべし、ということですね。
さらに話がずれますが、よく公会堂や美術館などでレストランが入っていることがありますが、その部分は、行政財産の目的外使用許可としているところもあるのではないかと思います。
これも、17の競艇場と同じく普通財産として管理すべきだと思うのですが、敢えて逆に、公の施設とすることはどうでしょうか。まあ、その場合、明太パスタ〇〇円と条例に規定することになるかもしれませんが・・・。
25: くすのき
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2015/04/17 12:10:55
確かに設置当初から「目的外使用許可」が行われるというのは変ですよね。
公会堂のレストランは施設に欠くことのできないものとして予定されていると考えられます。
しかし、そこには、おそらく、契約によって貸し付けるわけにはいかない、特別な信頼関係によって相手方を選ばなければならない、という事情があるのだと思います。レストランには施設の改装等も必要ですから。
そこで、ほぼ自由裁量であり、消極的な承認(特許、設権行為)である目的外使用許可という制度を利用することに落ち着いたのではないでしょうか。
26: くすのき
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2015/04/21 17:15:03
目的外使用許可によるレストランは、施設に必要不可欠な場合もありますよね。
「レストラン用スペース」を設けて、(目的内の)使用許可(レストランスペースの使用許可)の対象にすることはできないでしょうか。
27: くすのき
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2015/04/27 16:36:00
道の駅や物産館では、全体を公の施設とした上で、レストランスペースも使用許可の対象としている例がありますね。
公の施設のレストラン設置については
①管理行為の一環として、業者に委託する
②使用許可による
③目的外使用許可による
の3つの方法があると考えます。
①の場合は総売り上げが、②・③の場合は使用料のみが、それぞれ、自治体の収入となりますね。
ただし、これらは、論理的な切り貼りで「決める」ことができるわけではなく、それぞれの公の施設の設置目的や性質によって自ずと「決まる」ことではないでしょうかね。
今月のまとめ
2015/5/15
○「行政財産」と「普通財産」について
公有財産の管理については、財産自体の性格やその達成しようとする目的から、それぞれ取扱いに違いが生じます。例えば、未利用地(部分)の貸付けについては、行政財産と普通財産のいずれであるかによって方法が異なります。
普通財産であれば、私人間の契約によることに疑問の余地はありませんが、行政財産の場合、「目的外使用許可」による場合と、余剰スペースの「貸付け」による場合とがあります。
○行政財産の「目的外使用許可」と「貸付け」について
「目的外使用許可」は、許可処分として行われます。許可処分ですので借地借家法の適用はありません。なお、目的外使用許可に関し、行政手続法の審査基準を具体的に定めることは困難であると思います。
一方、「貸付け」であれば、これは契約行為であり、借地借家法や民法の適用を受け、相手方に借地権や借家権が発生します。また、公用・公共用の必要性が生じたとき、それぞれの取扱いは以下のようになります。
<目的外使用許可>
・自治体が一方的に取り消すことができる。
・使用権を保有する特別の事情がない限り、使用者は補償を求めることはできない(最判S49.2.5)。
<貸付け>
・契約期間中の解除は、公用・公共用に供する場合であっても損失補償を行わなければならない(地方自治法238条の4第5項)。
○説明ができる「法の解釈」を
議論の中で、設置したばかりの施設に余剰部分が生じるのはおかしいのではないか、という指摘がありました。
ただし、普通財産と整理することは、議論にもあったように補助対象としての適否や、不用な財産として売払いなどの処分の対象となるため、難しいかもしれません。 また、議論の中には、施設の中のレストランのような必要なものについては、管理行為の一環として委託を行う、という方法が提案されました。
自治体が財産の管理(施設の運営を含む)を行うにあたっては、「こう決まっているから、こうだ」ではなく、その背景や目的を理解し、「なぜ、このように行っているのか」の説明が行えるよう、積極的な「法の解釈」が求められています。その意味で、自治体の法解釈の力が試されていると言ってよいでしょう。