長の「専決処分」を学ぼう
2016/7/11
◎前回のテーマ「地方公務員制度(勤務条件・人事評価等)について」の『まとめ』を掲載いたしました。過去のコモンズからご覧ください。
「専決処分」とは、本来は議会の権限である事項を、長が代わって処分することをいいます。専決処分の種類には、次の2つがあります。
①自治法179条に基づく専決処分
②自治法180条に基づく専決処分
自治法179条に基づく専決処分は、議会と長との関係の調整を目的とするものです。次のいずれかに該当する場合に行うことができます(自治法179条1項本文、2項)。
①議会が成立しないとき。
②一定の要件の下で、議会の会議を開くことができないとき。
③長において、特に緊急を要するため、議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき。
④議会において議決すべき事件を議決しないとき。
自治法180条に基づく専決処分は、地方公共団体の運営に関する効率性を目的とするものです。「軽易な事項で、議会の議決により特に指定したもの」について行う ことができます。この専決処分の対象事項を指定する議案の提案権は、議員に専属し、長にはないとされています。
なお、長が自治法179条に基づく専決処分を行ったときは、次の議会でその内容を議会に報告し、承認を求める必要があります(同条3項)。自治法180条に基づく専 決処分については、その内容を議会に報告しなければいけませんが(同条2項)、承認を求める必要はありません。
自治法179条に基づく専決処分のうち上記③の場合は、長の判断が専決処分の要件を満たしているかどうかが問題となることがあります。今回は、長の専決処分に関 する課題について議論しましょう。
1: ぷよぷよ
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2016/07/15 00:23:46
具体的な対象があらかじめ定められている180条専決に比べて、個別の事例に対処する179条専決の取扱いには、その妥当性について特に留意する必要があります。
実際の運用で専決処分の根拠とされるのは、上記でれっきされるもののうち「長において、特に緊急を要するため、議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき。」が多くを占めます。「時間的余裕」の有無の認定は長が行いますが、その認定には客観性がなければいけません。
年度末の地方税法改正に伴う、税条例の改正ですが、ほとんどの自治体では専決で対処しています。この場合、条例例(例)に基づく改正について、緊急性への説明から、専決の対象となる条例改正を4月1日施行分に限定する自治体も少なくありません。
2: ぷよぷよ
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2016/07/15 00:27:28
また、副知事・副市町村長の選任の同意については、専決処分によることはできません(自治法法179条1項ただし書)。これは、鹿児島県阿久根市において、副市長の選任に当たり、市長が議会の同意を得ず専決処分を行った明記された経緯があります。
なお、二元代表制である自治制度において、もとより長が議会活動を否定するような法運用を行うことが適当でないことは、いうまでもありません。
3: くすのき
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2016/07/15 08:32:12
阿久根市の例は、「明記」されただけで、もともと違法であったことは間違いがないですね。
専決処分は、執行機関内部の決まりごとではなく、議会と長との関係なので、よりダイナミックであり、また、デリケートなので「条理」や「考え方」で処理しなければならない部分も多いと思います。
4: くすのき
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2016/07/15 08:34:04
他に、執行機関内部の事務決済規定の「専決」とは別ですでることも確認しておきましょう。
「本来の権限を持つ機関以外の機関が自治体の意思決定をする」という意味では執行機関の専決と同じでしょうね。
5: くすのき
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2016/07/15 08:36:01
179条専決の方から議論を始めましょう!
この専決で処理した事項について、議会の議決が得られなかった場合、専決処理は有効でしょうか。(例:契約)
6: ぷよぷよ
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2016/07/15 22:39:51
自治法179条4項には「長は、速やかに、当該処置に関して必要と認める措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならない」とあります。
ここで「必要と認める措置」の内容ですが、「逐条 地方自治法 第8次改訂版」には、以下のようにあります。
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「必要と認める措置」とは、特定の措置に限定しているものではなく幅広い対応を可能としている。
改正条例案の提出、補正予算の提出などが考えられるが、その措置の具体的内容は長が適切に判断すべきであり、長が議会や住民に対して説明責任を果たす観点からの必要な対応を行うことも含まれるものである。
(614ページ)
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ここでの例示に、契約については記載ありません。
もちろん、専決処分に基づく契約が、承認を得られなかったことをもって直ちに無効になるものではありません(契約の相手方だって困ってしまいます)。
考えるとすれば、
・議会の意向に沿うよう、変更契約の是非について検討を行うこと。
・住民に対し、事業の内容についてあらためて詳細な説明を行い、広く理解を得ること。
などがあるでしょうか。
ただし、変更契約を行う場合でも、新たな支出が発生することになりますので、その適否は慎重に検討すべきでしょう。
つまるところ「承認を得られなかった理由は何か」によって、個別に判断されることになるでしょう。
・対外的な説明不足→事業の説明を行う。
・契約内容への具体的な指摘→軽微なもので、可能であれば設計変更
etc.
7: ぷよぷよ
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2016/07/20 23:49:05
180条に基づく専決処分について補足します。
その具体的な内容については、自治体ごとに違いがあるのが現状です。もちろん、それぞれの自治体議会の判断によるものですから、どれが妥当か、ということは基本的にはありません。
主なものとしては、一定の額までを対象とした訴えの提起、和解、調停や、法令からの引用条項ずれ、地番変更等に起因する形式的な条例改正などがあります。ここで「一定の額」も自治体によってそれぞれです。
8: くすのき
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2016/07/21 09:11:17
179条の専決について。
一般の契約議案の場合は、議会の承認が得られなければ当然、契約の効力は発生しませんよね。
でも、専決処分後に議会の承認が得られなくても、契約の法的な効力には影響ありませんね。
やはり、専決は重いですね。限定的に行うべきでしょうね。
9: くすのき
- 2016/07/21 09:13:21 これに、少し関連して、法律の改正に伴う手数料条例の改正を年度末にまとめて行う自治体もありますね。
10: ぷよぷよ
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2016/07/23 23:32:55
>専決処分後に議会の承認が得られなくても、契約の法的な効力には影響ありません
長が専決処分により、本来は議会の権限を行ったわけですからね。逆に言えば、これをもって、議会の権限を無視したといえるのが阿久根市であったといえます。
>法律の改正に伴う手数料条例の改正
これは存じ上げませんでした。新年度の歳入にリンクさせる意図かな?
でも、周知期間を設けるべきものもあるでしょうし、何より、場合によっては全国的に年度途中で行うものもあるのではないでしょうか(マイナンバーの通知カードのように)。
11: ぷよぷよ
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2016/07/23 23:43:31
年度末に、法律改正の伴う条項ずれを一斉に行う自治体の例は聞いたことがあります。改正内容に実体的な内容がない形式的なものとして一定時期に「棚卸し」をする意図でしょう。
ただ、そのような取扱いをする場合、法改正時の申送りに漏れてしまうと、改正のタイミングを
逸するのではないかという不安が(^^;
形式的である分、これを180条専決の対象としている自治体があることは、冒頭の説明のとおりです。
ただし、議会にとってみれば、改正内容が単に条項ずれであっても、その背景となる法律改正の意図に対して政治的意向を表明したい場合も考えられます。180条の対象に含むべき内容は、議会によって判断されるべきとする理由は、そのような点にあります。
なお、単に条項ずれの改正だからといって、議会を招集せず179条の専決処分のしてしまうことが適当でないことは言うまでもありません。
12: くすのき
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2016/07/25 14:05:28
>、単に条項ずれの改正だからといって、議会を招集せず179条の専決処分のしてしまうことが適当でないことは言うまでもありません。
そのとおりだと考えます。
条例改正の中身が重要であるかどうか自体も条例案を議決する議会において判断することです。
提案者である市長が勝手に判断することではないですものね。
13: くすのき
- 2016/07/25 14:08:42 そう考えると「法律が急に改正されたから間に合わない。」は179条専決の理由にはならないのでしょうね。本当は・・・。
14: ぷよぷよ
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2016/07/25 22:01:04
条項ずれの場合は、改正の経緯と内容が明らかなので、変更解釈が可能です。改正を急がない自治体があるのは、これが理由でしょう。
しかしながら、法改正の内容によっては、施行後直ちに対処する必要があります(行政処分に関するものなど)。
したがって、その対象は精査の上で検討する必要があります。
179条専決処分の対象となることが多い条例(例)に基づく改正ですが、本項の「1:」の書き込みでは、緊急性への説明から、専決の対象となる条例改正を4月1日施行分に限定する例があることについて記述しました。
一方、新たな税制は、年度末の地方税法等の改正に基づく一体的なものであり、4月1日施行分に限定することを否定的にとらえることも可能でしょう。
これらは、二元代表制の趣旨を踏まえ、自治体で事案ごとに判断されるべきと考えます。
15: くすのき
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2016/08/02 13:59:40
では、180条専決の場合について、議論しましょう。
一定以下の金額の損害賠償を専決処分できるようにしていると思いますが、どうでしょうか。
16: ぷよぷよ
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2016/08/05 22:30:32
専決区分の対象は、一定金額以下の損害賠償の額の決定・和解や、公営住宅の滞納者に対する住宅明渡し訴訟等の定例的な訴えの提起などがあります。
損害賠償の額の決定・和解について、金額は100万円などきりの良い価格が設定されている例が多いですが、その額は、(当たり前の話ですが)自治体ごとに違いがあります。
また、「損害賠償の額の決定及び和解のうち自動車事故を原因とするものについては、~」のように、対象を細分化する例もあります。
この点は、自治体の規模や、執行部と議会の役割分担をそれぞれの自治体で検討した経緯によるものでしょう。
17: ぷよぷよ
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2016/08/05 22:31:04
ただし、専決処分への委任の範囲については、高裁の判決があります(東京高裁H13.8.27)。
東京都が応訴した訴訟事件関係の和解のすべてを知事の専決処分とした議会の議決が違法であるとして、専決処分により和解を成立させた元知事に対し損害賠償を求めた住民訴訟です。
およそ訴訟上の和解のすべてを無制限に知事の専決処分とすることは、法の許容すべきところではないというべきであり、このような議決は、偽下院ゆだねられた裁量権の範囲を逸脱するものとして違法・無効とされました。
18: くすのき
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2016/08/12 12:06:48
損害賠償額の決定は、長と企業管理者の権限ですよね。
両者の議決要件が違うようですが、各自治体ではどうなっているでしょうか。
19: ぷよぷよ
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2016/08/17 20:49:43
地方公営企業法40条2項には自治法の適用除外が定められており、地方公営企業の業務に関し、
①負担附きの寄附・贈与の受領、②審査請求その他の不服申立て、③訴えの提起・和解・あつせん・調停・仲裁、④損害賠償の額の決定
については自治法96条1項が適用されず、議決の対象ではありません。
ただし、「条例で定めるものを除き」と規定があり、特定の対象を議決の対象として条例で定めることができます。自治体によっては、自治法180条に基づく「専決処分以外の内容」について、地方公営企業法に基づく「議決の対象」としています。
ややこしくなってきました。
具体的な例を挙げると、「100万円未満の損害賠償の額の決定」を自治法180条専決の対象としている場合において、「100万円以上の損害賠償の額の決定」を地方公営企業法40条2項に基づく議決の対象とする場合などです。
今月のまとめ
2016/9/9
わが国の自治制度で採用されている二元代表制は、地域自治の公正・適切かつ円滑な運営のために、それぞれ住民の直接選挙で選出された長と議会が 相互に牽制し均衡を図るものです。
今回の議論で取りあげた専決処分は、そのような長と議会の関係を調整するための手段であるわけです。
阿久根市(鹿児島県)では、平成22年に、市長が議会を招集せず、本来は議会の議決を要する事項について専決処分を行い、それによって市政を運 営する事態に至りました。そのような市政運営が、現行の制度のもとで適当でないことはいうまでもありません。
上記の「事件」が契機となって、平成24年9月に、地方自治法が改正され専決処分の対象などに変更がありました。その内容は、以下のとおりです。
・副知事及び副市長村長の選任を対象から除外する。
・条例・予算の専決処分について議会が不承認としたときは、長は必要と認める措置を講じ、議会に報告しなければならないこととする。
専決処分の具体的な取扱いは自治体それぞれですが、二元代表制を踏まえた適正な運用が行われるべきであることには留意が必要です。 なお、類する用語に、長の補助機関における「専決」がありますが、「専決処分」とは意味や効果が異なりますので注意してください。