懲戒処分の実務とは?-住民の信頼を得るために-
2015/12/2
◎前回のテーマ「新行審法の施行が迫る!事務の準備は進んでますか? 」の『まとめ』を掲載いたしました。過去のコモンズからご覧ください。
不祥事を起こした職員は、刑罰、懲戒処分及び賠償請求又は賠償命令を受ける可能性があります。今回のテーマは、そのうち、比較的事例が多い「懲戒処分」 です。以下は、懲戒処分の主なしくみです。
1 処分の種類(法律事項)
懲戒処分の種類は4種に法定されています(地方公務員法。以下「法」29条1項)。免職、停職、減給、戒告です。様々な分野で地方への権限移譲は進んで いますが、自治体が独自の懲戒処分を創設することはできません。
2 処分の手続・効果(条例事項)
処分説明書の交付方法等の処分の手続及び停職期間(例:1日~12月)や減給の期間や割合(例:1日~12月で各月額の1/10まで。)等の処分の効果 は条例で定めます(同条4項)。
3 処分の基準(任命権者の権限に属する事項)
法律で決められた処分の種類と条例で定められた処分の効果を組み合わせて、懲戒処分が決定されます。例:停職(法律事項)+3ケ月間(条例事項)=「停 職3月」(処分)処分の基準(例:「盗撮は3月以下の停職、減給12月まで又は戒告とする」等)を設ける場合は任命権者(長、委員会、企業管理者等)が 訓令等で行うことになります。
4 懲戒処分に対する不服申立て・裁判
懲戒処分に不服がある場合、人事委員会(公平委員会)に対する不服申立てとその後の裁判で任命権者と争うこととなります(企業職員は裁判のみ)。そのう ち、人事委員会等が行う判定においては、処分の承認と取消しだけではなく、処分を軽減(免職→停職6月)することもできます(当然のことですが重く変更 することはできません。)。
懲戒処分は、住民に対する行政処分ではありませんが、適切に行わなければ住民の信頼を得ることはできません。事例を挙げながら、懲戒処分の実 務に役立つ議論を始めましょう。
1: bottom
- 2015/12/07 23:53:52 飲酒運転で免職というニュースが一時、世上を賑わせていましたが、あれは何が問題だったのでしょうか?
2: くすのき
-
2015/12/08 09:00:49
免職は地方公務員法に基いて行われます。
上記、「はじめに」にもあるように懲戒処分の一つですね。
懲戒処分の理由は、地方公務員法に規定があります。
(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
です。
飲酒運転は三号に該当するともに同法の
(信用失墜行為の禁止)
第三十三条 職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
にも違反していることになりますから、結局、上記一号に違反、つまり(この法律=地方公務員法違反)していることになりますね。
3: くすのき
-
2015/12/08 09:13:06
懲戒処分についての法令の規定は上記29条だけです。
住民に対する処分のように、施行令などはありません。任命権者の裁量ですね。
人事院の例を参考にした基準(例:飲酒運転は「停職又は免職」)を定めている自治体(任命権者)もありますが、非違行為の態様はさまざまですから許認可の基準のようには機能しません。
飲酒運転の場合も、戒告~免職の中でどの処分が適当かという点からの比例・平等原則で判断するしかないですね。事例や裁判例を参考に。
いくつか飲酒運転に対する免職処分が取り消された事例がありますね。
これは、裁判所から、具体的な基準違反を問われたものではなく、比例原則違反(常識や経験則から判断して重過ぎる)を問われたのでしょうね。
4: くすのき
-
2015/12/08 10:26:08
また、飲酒運転で起訴されて禁錮や懲役になれば失職します(地方公務員法16条)。
失職ですから、任命権者の意思ではなく、自動的に身分を失いますね。確認的に辞令は交付されますが、懲戒処分のような法的な効果のあるものではありません。
5: くすのき
-
2015/12/08 10:29:33
実際に飲酒運転で執行猶予つきの懲役刑になって失職した例はあります。
個人的には飲酒運転=免職はバランスがよくないと考えます。
40キロのスピード違反でも免職にはなりにくいですからね。
6: 北法研 パピコ
-
2015/12/08 18:37:38
例えば盗撮の場合、相手と示談が成立または未遂で刑事罰に問われない場合、信用失墜行為で懲戒処分となるのは納得が行きません。民間企業の感覚と離れている(公務員だけ厳たしい)
気がしますがいかがでしょうか?
7: ぴょん
-
2015/12/09 07:06:17
刑事罰に問われないといっても、信用失墜につながる行為であるということではないでしょうか。
実際は、その行為が、マスコミ報道されたか否か、どの程度の社会的影響を与えたかなどによっても、懲戒処分の軽重が変わるのでしょう。
現実的には、人事部門がどの程度事実(信用失墜行為)を把握できるのかということも気になりますが。
8: くすのき
-
2015/12/09 11:57:17
確かに、処分において、「公務員としての立場」をどこまで考慮するかは、民間とのバランスも必要なので、難しいですね。
本人が否認した場合には、人事課には捜査能力はありませんから、懲戒処分は困難でしょうね。裁判を傍聴して事実を確認していくことになります。大変な手間です。小規模な市町村ではノウハウや経験が少ないでしょうし。
実際には、「①犯罪行為」―「②起訴」-「③分限処分としての起訴休職」-「④判決」-「⑤処分」というのが一般的な手順です。
③では、結果として、条例の規定によって、生活給として60%程度の給与が支給されます。「犯罪を犯したのに、給与を支給するのは市民の理解が得られない。」と思われるでしょうが、この段階では、起訴の内容が事実かどうか、また、事実として、処分に値するものかどうか分かりませんからね。
9: くすのき
-
2015/12/09 12:01:37
分限処分に関することで恐縮ですが。
上記③においては、結果として無罪・無実であっても、残りの40%は支給されません。
もちろん、分限休職処分は取り消されません。起訴されたことに対する処分です。犯罪行為が事実かどうかは別として、起訴された職員が公務に携わっていることが、自治体の業務に支障を来たすので休んでいてください、という趣旨です。ですから、起訴事実がありさえすれば、当該分限休職処分は適法なのです。
なお、窓口職員であるか、市民に接することのない内部管理事務の職員であるかによって、起訴休職処分の要否が異なります。
10: くすのき
-
2015/12/09 12:37:53
飲酒運転などの犯罪行為に対する処分については
①判決前に処分
②一審判決の内容を確認して処分
③判決が確定してから処分(最高裁判決後、控訴しないことが確定した後)
のいずれかになるのではないでしょうか。
「事実認定」は裁判を参考にせざるを得ない部分が多いと思いますが、「事実の評価」は判決に拘束される必要はない、というか、本来的に判決と処分は別物ですよね。
ですから、起訴猶予の事案について免職処分を、一方で、高額の罰金刑の事案に戒告処分をおこなったとしても、何らおかしなことではないと考えます。
11: くすのき
- 2015/12/09 12:40:19 (つづき)ですから、処分理由書に「・・年・・月・・日・・時に、・・において飲酒運転をして、裁判で罰金刑を受けたこと」のような記載は理由の提示において瑕疵があると考えます。
12: 北法研 パピコ
-
2015/12/10 01:28:49
裁判で罰金刑を受けたから信用失墜行為ではなく、
裁判沙汰になるような非違行為をしたので信用失墜行為ということですか?
あと、処分書には理由を記載しなくてはなりませんが、
事実認定をして理由を記し処分を行うのは任命権者で、
不服申し立てがあってはじめて人事委員会の出番ですよね。
人事委員会は任命権者、処分を受けた職員とは中立な立場ですので、
処分前に人事委員会に処分の内容・軽重の相談をしてはだめですよね。
13: くすのき
-
2015/12/11 16:25:17
>裁判で罰金刑を受けたから信用失墜行為ではなく、
>裁判沙汰になるような非違行為をしたので信用失墜行為ということですか?
事実認定は「事実上」裁判の内容に頼らざるを得ない場合が多いですが、裁判の結果そのものが処分理由にはなりませんよね。
>あと、処分書には理由を記載しなくてはなりませんが、
>事実認定をして理由を記し処分を行うのは任命権者で、
>不服申し立てがあってはじめて人事委員会の出番ですよね。
>人事委員会は任命権者、処分を受けた職員とは中立な立場ですので、
>処分前に人事委員会に処分の内容・軽重の相談をしてはだめですよね。
そのとおりですね。ただ、処分説明書の記載方法について技術的なアドバイスを仰いだり、人事委員会が任命権者に対して適正な処分に関する研修を開催したりすることは考えられると思いますよ。
14: 北法研 パピコ
-
2015/12/13 21:08:15
地公法での懲戒処分については、特別職の公務員には適用がありません。
例えば副町長さんが「セクハラ」「パワハラ」等をした場合
懲戒処分は行えるのですか?
15: くすのき
-
2015/12/14 16:38:49
地方自治法施行規程に
第十三条 都道府県の専門委員は、次に掲げる事由があつた場合においては、懲戒の処分を受ける。
一職務上の義務に違反し又は職務を怠つたとき
二職務の内外を問わず公職上の信用を失うべき行為があつたとき
2懲戒の処分は、免職、五百円以下の過怠金及び譴責とする。
第十六条 第十三条の規定は、市町村及び特別区の職員の懲戒について準用する。
と規定されています。
これが副町長に適用されませんかね。
16: 北法研 パピコ
-
2015/12/14 22:44:06
なるほど。特別職でも懲戒処分の規定があるのですね。
話は変わりますが、公務員の懲戒処分は行政手続法は適用除外ですよね。
(行手法3条9号)
また、先月のテーマであった改正行政不服審査法の関係では、
懲戒処分の「不服申立て」を「審査請求」に改め、請求期間が3か月
になりますが、審理員等の規定は適用されない。
(改正行政不服審査法第2章の規定は適用しない)
となり、懲戒処分については、処分書の様式変更くらいの準備で良いと
考えていますが、みなさまいかがでしょうか?
17: くすのき
-
2015/12/15 11:48:09
15について。
一般職の職員については地方公務員法が制定されましたので、施行規程は適用されません。特別職の職員が対象です。
しかし、実際には、対象となる範囲についての認識はありませんし、特別職の嘱託職員を規程に基いて処分した例はないのではないでしょうか。
16について
処分書の様式変更とは具体的のどんな内容ですか。
18: 北法研 パピコ
-
2015/12/15 18:21:15
スミマセン。懲戒処分の説明書です。
説明書には教示文がありませんか?
19: くすのき
-
2015/12/18 14:31:45
教示文はあります。
人事委員会(公平委員会)への不服申立てが前置です。
公平委員会における不服申立ての審査については、県の人事委員会に委託している場合も少なくありません。
その場合、純粋な第三者機関として委託した市町村の案件を審査する傾向があル用泣きがします。つまり、処分を修正した案件が相対的に多い気がします。
また、人事関係職員等のうち一定の範囲は、は地方公務員法と人事委員会規則で組合への加入が禁止されています。
しかし、県に委託した場合、県の人事委員会規則に気づかず、委託した市町村の人事関係職員が組合に加入している例も見られますね。これは、組合の効力・登録要件に関わります。
20: くすのき
-
2015/12/18 14:38:16
他の注意点です。
人事委員(公平委員)には附属機関の委員以外の地方公務員は就任できません。
嘱託もダメですし、弁護士を事件後とに非常勤職員に任命している場合もダメです。
さらには、要綱設置の審議会も附属機関ではありませんから、委員(構成員)は人事委員にはなれません。数年前の法改正前は附属機関の委員もダメでした。気づかずに任命していた自治体もあるようです。
いずれも、人事委員等の欠格条項ですから、これらの者が委員になっていた場合、その間の裁決、採用試験(人事委員の場合)が、「無効」になると考えます。
特に県へ委託している場合は注意が必要ですね。
21: 北法研 パピコ
-
2015/12/23 00:23:17
くすのきさま、19の
人事関係職員等のうち一定の範囲は、は地方公務員法と人事委員会規則で
組合への加入が禁止されています。
しかし、県に委託した場合、県の人事委員会規則に気づかず、委託した
市町村の人事関係職員が組合に加入している例も見られますね。
これは、組合の効力・登録要件に関わります。
これは、県の人事委員会規則で「○○は管理職」とされているのに気づかず
委託した市町村の○○の役職の方(管理職)が管理職以外の方と組合を結成
しているということでしょうか?
それとも人事委員会の事務局の方は組合に加入できないのですか?
22: ぷよぷよ
-
2015/12/23 21:28:28
>民間とのバランスも必要
飲酒運転は論外として、結果的に発生してしまった交通事故の刑事罰により即失職、というは、厳しい気がします。
※公務員の公人たる意図はわかるのですが
むずかしいですね。
23: くすのき
-
2015/12/28 10:29:16
パピコさん
>これは、県の人事委員会規則で「○○は管理職」とされているのに気づかず
>委託した市町村の○○の役職の方(管理職)が管理職以外の方と組合を結成
>しているということでしょうか?
そのとおりです。比較的小規模な自治体では組合全入のところも多いですから。
人望のある職員は人事と組合役員を兼ねそうになる場面も想定されますよね。
>それとも人事委員会の事務局の方は組合に加入できないのですか?
ほとんどの自治体で人事委員会の職員も「管理職」扱いですね。
ぷよぷよさん
地方公務員法16条1項により、条例で欠格条項を排除することはできます。
ご指摘の2号を対象としている例は比較的多いでよすね。
なお、同条5号の「・・・暴力で破壊すること・・・団体・・・」は、暴力団のことではありません(笑)。
今月のまとめ
2016/1/7
自治体における懲戒処分について議論してきました。
懲戒処分の根拠は、地方公務員法にあります。
(懲戒)
第29条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
飲酒運転などの私的な違法行為は、上記三号に該当するとともに同法の
(信用失墜行為の禁止)
第三十三条 職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
にも違反しており、結局、上記一号に違反、つまり(この法律=地方公務員法違反)していることになりますね。
懲戒処分についての法令の規定は上記29条だけです。 懲戒処分については、住民に対する処分
のように、細かな要件などを定めた施行令などはありません。ですから、制度設計上は、任命権者の裁量が広く認められる形となっています。
各任命権者では、人事院の例を参考にした基準(例:飲酒運転は「停職又は免職」)を定めている場合も多いようですが、非違行為の態様はさまざまですから許認可の基準のように定型的・画一的な判断基準としては、なかなか機能しにくいのが実際です。
また、軽すぎる処分も問題ですが、住民やマスコミを意識しすぎて、厳しすぎる処分を行うことがないようにしなければなりません。飲酒運転に対する免職処分が取り消された事例がありますが、これは、裁判所から、具体的な基準違反を問われたものではなく、比例原則違反(常識や経験則から判断して重過ぎる)を問われたものだと考えられます。
懲戒処分については、大きな裁量があり、また、自治体の人事方針を具体化する手段ですが、あくまで、過去の事例や裁判例、そして、社会情勢などを踏まえながら、慎重に判断する必要があります。