附属機関の役割と問題点
2015/6/26
今回は、地方自治体に数多く設置されている「附属機関」を取り上げます。
第一に、そもそも「附属機関」とはどういったものをいうのでしょうか。
地方自治法は「普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調 停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる」(第138条の4第3項)とし、また、「普通地方公共団体の執行機関の附属機関は、法律若しくはこ れに基く政令又は条例の定めるところにより、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う機関」(第202条の3第1項)としています。
もう少しわかりやすく整理すると、附属機関は、
① 執行機関(市町村長,委員会等)に置かれる。
② 執行機関の要請により行政執行の前提として必要な調停、審査、審議又は調査などを行う。
③ 審査会、審議会、調査会等の名称が付されることが多い。
④ 法律又は条例の定めるところにより設置される。
ということになります。そして、この附属機関の「委員その他の構成員は、非常勤」(第202条の3第2項)の職員で、その対価は報酬となります。 なお、附属機関を私的諮問機関との対比で整理すると次のようになります。
第二に、附属機関の特徴として、
① 附属機関は合議制の機関である。
② 附属機関には最終的な意思決定を行う権限はなく、執行機関に答申を行うのであって、その採否は執行機関の裁量である。(ただ し、介護保険審査会、開発審査会、建築審査会などのように直接住民を相手方とする権限(裁決権)を有するものもある。)
③ 附属機関は執行機関から直接の監督を受けず(委員の任免、予算執行などは除く)、委員の自由な審議に基づいて執行機関とは独 立して意思決定する。
などが挙げられます。
第三に、附属機関が設置される理由として、
① 行政の民主化の観点から地方行政に住民の意思を十分反映させる。
② 複雑化・高度化し、かつ、広範にわたる行政需要に対応するために専門的な知識、技術を導入する。
③ 第三者の視点を入れることにより公正な行政執行を図る。
④ 地域の錯綜する利害を中立的な立場から調整する。
⑤ 縦割り行政の弊害を解消し、行政の総合調整を図る場とする。
といったことが挙げられます。
第四に、附属機関については、次のような問題点が指摘されます。
① 執行機関の判断を追認する御用機関である。
② 執行機関の責任を転嫁するための隠れ蓑である。
③ 議会審議を先取りし議会を形骸化させるものである(住民の意見を聴いたという実績づくり)。
④ 附属機関の要件を満たしているにもかかわらず、「条例」で設置していない。
さて、みなさんの自治体の附属機関の運用状況も振り返りながら、議論していきましょう。
1: bottom
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2015/07/02 23:47:24
初歩的な話で申し訳ないのですが、条例で設置している審議会があります。
で、ここ何年か、委員の委嘱をしていなくて実質的には休眠状態に陥っています。
審議会の役割は、通常は、市長から何らかの事項についての諮問を受けて、その事項の審議を尽くして、市長に対して答申をするというものだと思います。
でも、そのほかに、審議会自身が、これは重要だと考えて審議をして建議をする、という役割もあるのではないかと思います。
で、条例を見る限りは、建議も役割になっているようなのですが、、、、。委員の委嘱をしてなくてもいいのでしょうか?
2: くすのき
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2015/07/07 12:10:07
勘違いしてはいけないと思うのは、審議会が決めるわけではないということです。
指定管理者や業者の「選定委員会」という附属機関ができた場合、その答申が決定であるかのような、言い換えれば、附属機関を設置しないと選定できないような勘違いがあるのではないでしょうか。
bottomさんの質問も、建議が役割になっているという点では、委員を選定して機能させるべきなのでしょうが、附属機関というものの役割(属性)から考えると、結論としてはそのままでいいのではないでしょうか。
3: bottom
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2015/07/12 22:39:10
なるほど、あくまでも決めるのは首長(執行機関)だということですね。
責任も審議会ではなく、首長にある。なので、「その件は、審議会で決めていただいたものであり、、」みたいな言い訳は、できないんでしょうね・・・。
4: ぷよぷよ
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2015/07/13 01:14:24
首長が一時的な検討を求める「○○委員会」のような例でも、条例による設置が必要だという考え方は、ちょっと窮屈に感じます。
首長と議会の対立が厳しい場合、首長が政策決定を行うための必要な検討を行うための機関を置くための条例自体が否決されかねません。
そのような場合でも、要綱設置で機関を設けることは「違法」なのでしょうか?
5: くすのき
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2015/07/13 15:15:14
附属機関の設置に条例が必要なのは「濫設の防止」が趣旨です。
窮屈に感じるのは個別具体の委員会設置の際ではなく、全体として量的に多いからではないでしょうか。
そもそも、専門家の知見を求めるのであれば、委員会ではなく、条例が不要な専門委員制度の活用で良いのではないでしょうか。
執行機関が主体性を持って判断するのなら、専門委員から専門知識を個別に収集すればよいのであって、委員会による学際的議論は必要ないと考えます。
6: ぷよぷよ
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2015/07/15 01:28:53
>「濫設の防止」が趣旨
なるほど、行政組織の最上位を条例で定めなければいけないことを思い出しました。効率かつ適正な組織運営を客観的に担保しようとする趣旨でしょうか。
>全体として量的に多い
ぐ、胸に刺さりますね。専門委員で対処という指摘は、なるほどです(^^;
ただ、執行機関は施策の策定に当たり、合議制である審議機関の客観性を求める局面も少なくないと思いますので・・・
そもそも、行政組織を条例で定めなければいけない、という自治法の要請が、長の執行権を侵害しているような気もするのですが(横道にそれてすいません)
執行機関において附属機関を設ける意図は前述のとおりですが、議会において附属機関を設けることの是非が議論された時期がありました。
個人的には、議会自体が複数の議員で構成される組織であるので、改めて「○○検討委員会」を置くような構成は違和感があるのですが、ご意見いただけたら幸いです<(_ _)>
7: くすのき
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2015/07/16 09:46:49
「議会に附属機関を設置してはいけない。という規定がないから設置しても良い。」という理由で、附属機関を設置している自治体もあるようですね。
しかし、一般的には、地方自治法は「制度」の法律ですから、「積極的な禁止規定がない事項は許される。」という解釈ではなく、「できるという積極的な、授権的な規定がない事柄はできない。」という解釈が素直だと考えます。
いずれにしろ、法制度を運用するときは、きちんとした「できる(法的)理由」を示して一般化しておかないと、一つ何かを実現するたびに、地方自治の全体の枠組みを実態的に歪めてしまう気がします。
小さな主観的成功?を積み重ねるたびに理想から遠ざかってしまうのではないでしょうか。
ぷよぷよさんのお考えの通り、そもそも、議会に附属機関など、必要ないと思います。
背景には、議会も政策を立案していかなければならないという考えがあるのでしょうが。
個々の議員が見識を積んで会議に望むことが本筋であり、それが期待されているのではないでしょうか。
8: jichiemon
- 2015/07/16 19:15:33 附属機関としての委員会を定める自治法の規定は昭和27年にできたものですね。そもそも、現状自治体の置かれた状況に合わず、あまり期待される役割をはたしていないのでしょうか。機能している附属機関はどのようなものがありますか。
9: ぷよぷよ
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2015/07/16 22:06:11
>機能している附属機関
介護認定審査会など法定のものはさておき、任意で条例設置されている主なものとしては、
・特別職報酬審議会
・指定管理者選定委員会
・住居表示審議会
・情報公開審査委員会
・個人情報保護委員会
などがあるでしょうか。
その機能の充実については、個々の委員会の運営状況にあろうかと思いますが、情報公開や個人情報保護に関しては、住民から期待される役割が大きいのではないでしょうか。
上記に「運営状況」と書きましたが、人選もさることながら、当該自治体の「風土」にもよるところがあるかもしれません。
10: bottom
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2015/07/22 23:46:39
審議会等の乱設が問題視されていますが(その点については私も同意見ですが)、社会保障分野などでは、外部からも〇〇審議会みたいなものを設けることを求める雰囲気があるように思います。
そのことも乱説の背景にあるのではないでしょうか。
また、最近では、これまで要綱設置で運営してきた審議会を全て条例設置に切り替える自治体が増えていますが、この背景には何があるのでしょうか?
11: ぷよぷよ
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2015/07/25 23:56:28
>要綱設置で運営してきた審議会を全て条例設置に切り替える
広島高裁判決(平成21年6月4日)や東京高裁判決(平成23年9月15日)などで、事案の対象が「附属機関」に該当すると判断されている動向によります。これらは、「報償費」として支出された構成員への対価について、その取り扱いの是非が住民監査請求を経て住民訴訟で争われた事例です。
なお、平成25年7月に発行された『逐条地方自治法 第7次改訂版』では、「要綱等によって、執行機関の補助職員以外の外部のものも委員或いは構成員として加わる委員会、協議会等を設置している例が少なくないが、こうしたものは『機関』とは区別して、行政運営上の意見聴取、情報や政策等に関して助言を求める等の場として設けられるもので、(自治法第138条の4)第3項に違反するものではないとみられる」との記述が追加さ
れていることには、注意を要するでしょう。
運営する組織の性格を見極めて適正な取捨選択が行われるべきであるという趣旨でしょうか。
実際のところ、首長が政治的な判断を行う際に客観的な意見を求めるために行った対応について、反対する勢力からこれを覆すために住民訴訟という手段が採られることもあるようです。
今月のまとめ
2015/7/24
近年、要綱設置の審議会については、これを地方自治法上の附属機関に該当すると判断して、条例により設置していないことを違法とする裁判例が出 ています(ただし、最高裁判決はありません。)。
例えば、総合計画の策定、進捗状況等について審議し、市長にその結果を報告し又は意見を建議し、委員は市の職員以外の者を委嘱することを想定し ている「まちづくり市民委員会」(要綱設置)、PFI事業の民間事業者を選定し、その結果を市長に提言し、委員には市職員以外の有識者が含まれ ている「選定委員会」(要綱設置)、地域づくりについて、調査・研究・討議を行い、町長に提言するため設置された「まちづくり委員会」(規則設 置)、学校の適正配置、適正規模、教育水準の向上その他の重要事項について調査審議するため設置された「教育施設適正化審議会」(要綱設置)、 情報公開制度の基本的な在り方、その基本的内容、その他制度化に伴い必要となる事項について検討を行い、その結果を市長に提言するため設置され た「情報公開懇話会」(要綱設置)などが、条例によらず設置していることを違法とされ、したがってこれらの委員会等に係る支出も違法とする地 裁・高裁の判決が出ています。
また、そのような流れを受けて、これまで要綱等で設置していた協議会等を附属機関とするため条例を新設・改正する自治体もあります。
そもそも附属機関の設置が条例事項とされている背景には何があるのでしょうか。
まず、執行機関(首長・行政委員会)の設置は、憲法及び法律(地方自治法等)に定められており(執行機関設置法律主義)、首長の直近下位の内部 組織(局等)は条例で定めて議会の立法的統制を図ることとされています(局部設置条例主義)。
同様に、執行機関の附属機関の設置についても条例で定めて議会の立法的統制を図るということでしょう(附属機関設置条例主義)。
しかし、国においては法律だけではなく政令によっても審議会の設置が認められている点(国家行政組織法8条)からすれば、附属機関の設置につい てもある程度柔軟な対応が可能となるよう制度改正を行うことも検討課題になるかもしれません。
しかし、現行の地方自治法では、附属機関設置条例主義が採用されていますので、適宜適切な対応が求められているといえるでしょう。