住民訴訟制度
2018/2/9
「住民訴訟」は、長や職員の違法な行為によって、自治体に損害が発生している場合に、その自治体に代わって住民として、長、職員あるいは違法行為によって違法に 利得を得ている相手方に対して、自治体への金銭の返還や賠償を求めて訴訟を起こすことができる制度です(自治法242条の2)。
訴訟(裁判)は、基本的には、自分の具体的な権利や義務に直接関係することについてしか起こすことができません。
・貸したお金を返してくれない。
・土地を不法に占拠されている。
・役所が許可を出してくれない。
・役所が申請書を受け付けてくれない。
などです。よって、
①自分の権利義務に一定程度のかかわりはあるものの抽象的で具体性のない事柄、②具体性はあるが自分の権利や義務に直接のかかわりがない事柄については、基本的 に、訴訟を起こすことはできません。裁判所で却下されてしまいます。例えば、①では、税条例が改正されて自分が適用になると考えられる税率が上がったので、税条 例の改正を求める、という訴訟は起こせません。改正後の税条例に基づいた行政処分(納税通知書の到達)に対して訴訟を起こすことになり、その争点として、税条例 改正の違法性を適宜、争うことになります。②については、お金を返してもらえない友人に成り代わって、代理人でもない(頼まれてもいない)のに訴訟を起こすこと はできません。しかしながら、住民訴訟は②の例外であり、原則的な訴訟形態である「主観的訴訟」に対し「客観的訴訟」に分類されます。
住民訴訟制度は、先の地方自治法改正で見直しが行われました。今回は、住民訴訟の制度を確認しながらに議論をしていきましょう。
1: ぷよぷよ
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2018/02/19 19:39:54
住民訴訟は、「住民監査請求」をした住民が提起することができます。
住民訴訟を起こせ津場合は、自治法242条の2第1項各号に限定的に規定されており、その内容は、以下のとおりです。
(1)監査の結果・勧告に不服があるとき
(2)勧告を受けた議会・長等の措置に不服があるとき
(3)請求をした日から60日を経過しても、監査委員が監査・勧告を行なわないとき
(4)勧告を受けた議会・長等が措置を講じないとき
2: ぷよぷよ
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2018/02/19 19:40:25
住民訴訟の対象となるのは財務会計上の違法行為等であって、それ以外の一般の違法行為は、対象となりません。
また、その行為は、違法性のみでなく、行為によって自治体に損害が生じ、又は生じるおそれがあることが必要とされています。
3: くすのき
- 2018/02/22 12:36:06 実際には、あらゆる事業の執行には、予算の支出がともなうので、対象は広くなります。
4: くすのき
- 2018/02/22 12:38:14 訴訟の目的も事業の批判であることが多いようです。
5: ぷよぷよ
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2018/02/22 19:05:29
なるほど。
大規模工事の反対に関し、関連する予算について住民訴訟を提起するという方法ですね。
住民訴訟の前段階として「住民監査請求」が必要であることは上記のとおりですが、住民監査請求は、選挙権を有する者の50分の1以上の連署をもって請求される「事務監査請求」とは異なり、住民が1人で請求を行うことができます。
実際には、事務監査請求の事例は少なく、住民監査請求が多く利用されている現状があります。
6: ぷよぷよ
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2018/02/27 19:54:09
住民訴訟の内容は、自治法242条の2第1項各号に定められており、各号に応じて「1号訴訟」から「4号訴訟」と呼ばれます。
(1)執行機関・職員に対する全部又は一部の差止め請求
(2)行政処分の取消し・無効確認の請求
(3)執行機関・職員に対する怠る事実の違法確認の請求
(4)執行機関・職員に対し、職員や行為・怠る事実に係る相手方に損害賠償・不当利得返還の請求をすることを求める請求
上記のうち、もっとも事例が多いのは、(4)の4号訴訟です。
7: ぷよぷよ
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2018/03/07 17:01:45
「4号訴訟」による首長等の損害賠償責任については、先頃、自治法が改正されました。
新たな自治法243条の2第1項の規定(平成32年4月1日施行)では、首長等が負わなければならない最低責任限度額を条例で定めることとされています(政令が定める参酌基準に基づく)。
8: ぷよぷよ
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2018/03/20 21:15:34
改正後自治法243条の2第1項の規定は、株主代表訴訟い関わる会社法425条の役員等の会社に対する賠償責任の規定を参考にしたものであることを鑑みると、参酌すべき基準として定められる首長等の最低責任の基準は、
・首長 年収の6倍
・副知事・副市長・委員会の委員 年収の4倍
・監査委員 年収の2倍
と見込まれます。なお、一般の職員については、会社法に相当する定めがありませんが、年収と同程度とされるようです(『2017年地方自治法改正 実務への影響と対応のポイント』102頁)。
今月のまとめ
2018/4/13
4号訴訟で損害賠償・不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合、首長は、その返還金の支払を「当該職員」や「相手方」に請求しなければいけません(自治法 242条の3第1項)。 ここで「当該職員」の範囲は、公金の支出について首長から権限の委任を受けた者や決裁権者も含まれるというのが判例の立場です(最判昭62.4. 10ほか)。自治体職員の方は、自らの職責にご留意ください。
なお、住民訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む)した場合で、弁護士報酬を支払うべきときは、自治体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払 を請求することができます(自治法242条の2第12項)。
住民訴訟に類するものは、国の制度にはありません。住民に近い立場の自治体に独自のものといえます。
住民訴訟を意識することで、公金の無駄遣いの防止につながります。住民訴訟においては、「〇〇法に違反した支出かどうか」だけではなく、支出そのものが「正し かったかどうか」が常に問われています。