実効性確保の手法
2017/1/16
行政目的を確実に実現するため、実効性を確保するための手法が制度化されることがあります。自治体が条例や行政計画等で理想を掲げても、それが実現しなければ 「絵に描いたモチ」になりかねないからです。
実効性確保の手法とは、義務を履行しないものに対する対処であって、「禁止に対する罰金」などがあります。罰金などの罰則は、ペナルティを定めることによって義 務履行を促すものですが、実効性の確保のためには、対象者の身体や財産に直接実力を加えるものもあります。
実効性確保の手法は、威嚇的な作用により抑止効果が期待できる一方で、過度なペナルティにならないかの配慮が欠かせません。
今回の議論では、実効性確保の手法について、その種類や内容について議論してみましょう。
1: ぷよぷよ
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2017/01/26 19:33:25
実効性確保の手法として、真っ先に思いつくのは「罰則」です。罰則は、その定めにより、間接的に強制を行わせようという意図があります。
自治体は、法令で特別の定めがあるものを除き、条例に以下を科する旨の規定を設けることができます。
・2年以内の懲役・禁錮、拘留(1日以上30日未満の自由刑)
・100万円以下の罰金、科料(1,000円以上1万円未満の財産刑)
また、秩序罰として、5万円以下の過料を設けることができます。
「科料」と「過料」は、音読では「カリョウ」とややこしいので、それぞれ「トガリョウ」、「アヤマチリョウ」と読まれることがあります。
2: ぷよぷよ
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2017/01/26 19:34:05
「罰金」は、検察によって起訴され裁判により賦課されます。これに対して「秩序罰」である「過料」は、長が賦課処分として科しますので、警察や検察、裁判所の出番はありません。
刑罰と秩序罰は、どのように区分すべきでしょうか?
必ずしも明確ではありませんが、以下のように言われています。
・直接的に社会の法益を侵害する程度に重大なもの→刑罰
・社会の秩序を乱す程度にすぎないもの→秩序罰
3: ぴょん
- 2017/01/27 07:00:12 たしか、「過料」も法律に規定されたものであれば、裁判所によって課されるんでしたよね?
4: くすのき
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2017/01/27 09:03:07
>社会の秩序を乱す程度にすぎないもの→秩序罰
だから、路上喫煙で過料を受けても「犯罪」ではないのですよね。
社会悪ではなく、まちづくりの目的を阻害したに過ぎないということです。
この点、勘違いが多いですよね。
自治体の過料は、長、つまりは、職員が徴収しますね。法律は裁判所ですね。
5: ぷよぷよ
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2017/01/27 17:32:34
>法律は裁判所ですね
ご指摘のとおりです
条例で定めた義務づけが念頭にあったので、言葉不足になりました<(_ _)>
6: ぷよぷよ
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2017/01/27 17:33:20
過料は、住民票の異動が遅れた場合など「行政が達成しようとする公のための目的の達成を妨げるもの」へ科されるものが主なものでしょうか。
駅前喫煙禁止に対し、「そんなこと、やっちゃいかんだろう」の切り口が、「他人の身体などへの危害を与える」のであれば罰金、「自治体が推進しようとする公衆衛生の向上という政策目標への妨げ」であれば過料、ということになるでしょうか。
7: ぷよぷよ
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2017/01/30 21:20:55
東京都千代田区では、実効性を確保するため、条例で2万円以下の過料を定め、規則でその額を2千円としています(罰金を定めても、警察は事実上対処してくれない)。
ただ、「悪いものは悪い」ので、「実効性の確保」から罰則の手法を考えるのは適当でないという指摘もあります。
8: くすのき
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2017/01/31 12:10:17
>ただ、「悪いものは悪い」ので、「実効性の確保」から罰則の手法を考えるのは適当で>ないという指摘もあります。
法的には正論ですね。必要な視点だと思います。
各自治体に標準装備されている「ポイ捨て禁止条例」の過料はほぼ適用されたことはないようですね。住民票の過料も同様ではないでしょうか。
路上喫煙禁止条例の過料が、実質的には、自治体における過料のはじまりだという認識でいいでしょうか。
9: ぷよぷよ
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2017/01/31 21:56:30
罰則における罰金の適否ですが、以前に警察の方から「駅前喫煙や空き缶のポイ捨てが『前科』になるなんて、そっちの発想の方が私には違和感がありますね」と言われたことがあります(^^;
前科があると、医師や看護師、栄養士などの就業制限がありますからね。
10: ぷよぷよ
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2017/01/31 22:02:34
過料の運用の実態は、全国でどのような傾向にあるかまでは、すいません、ちょっと知識がないです。
千代田区では、お金を叩きつけられるなど係員の方がご苦労されていた旨は、制度開始時の報道で見ました。
間接的な強制手法としては、違反者の公表があげられます。
11: くすのき
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2017/02/03 09:58:45
公表で疑問に思うのが、行政指導と公表が結びついている例です。
任意であるはずの行政指導に従わないこと(「従う」という言い方が、すでに、矛盾です。)と、なぜ、公表という制裁を受けなければならないのでしょうか。
12: ぷよぷよ
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2017/02/03 19:24:05
>公表という制裁を受けなければ
「公表は【制裁】ではない、行政指導に従わない対象者の存在を知らしめる【周知】である」というロジックかもしれませんね。
13: ぷよぷよ
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2017/02/03 19:24:32
直罰の事例としては、野生のサルへの餌付けを行う者に対して、「その氏名等を公表することができる」とする条例があります。これは、やっぱり「制裁」なのかなあ。
※でも、たまたま訪れた観光地での餌付けによって、氏名が公表されたとしても、実態的な制裁と感じる人は、あまりいないのではないかな
14: ぷよぷよ
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2017/02/03 19:45:28
行政指導に従わないことへの公表については、情報提供と解する余地がある旨の宇賀克也先生のお言葉を、kei-zuさんが紹介されています
d.hatena.ne.jp/kei-zu/20050107/p4
15: ぷよぷよ
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2017/02/03 23:55:32
リンク失敗しました(^^;
http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20050107/p4
16: ぷよぷよ
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2017/02/07 23:12:12
罰金のような刑罰は、実際に適用される例が少ないことから、より機動的に対処できる手法として「公表」の手法が選択されている例はあるのかもしれません。警察・検察における適正な運用を要請すべきだ、という議論もできるでしょう。
ただ、警察の方から「駅前喫煙や空き缶のポイ捨てが『前科』になるなんて、そっちの発想の方が私には違和感がありますね」と言われたことがあります(^^;
前科があると、医師や看護師、栄養士などの就業制限があるのです。
17: くすのき
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2017/02/09 10:16:56
ぷよぷよさんのご指摘のようないわゆる「人権感覚」を持って条例を創っているかどうかを私たちは再検証しなければなりませんね。公表による相手方のダメージも含めて。
自治立法によって地域の課題を解決するいわゆる「政策法務」が「法治主義」と対峙するものではなく、法治主義の枠の中でその実現手段として政策法務があるのだということをここで確認したいですね。
18: ぷよぷよ
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2017/02/15 17:29:45
>私たちは再検証しなければなりませんね
自治法14条3項で、定められる罰金や懲役に上限がある(法令に特別の定めがあるものを除く)のは、自治体への信頼が薄いことによるのかもしれませんね(汗
ただ、故意による悪質な犯罪(組織的に経済的利益をあげようとするものなど)に対して100万円が上限の罰金にどれほど防止効果が望めるかは難しいところです。
であればこそ、自治体は、様々な手法を「実効性の確保」のために活用することになります。
19: ぷよぷよ
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2017/02/20 22:22:52
>100万円が上限の罰金にどれほど防止効果が望めるか
例えば、落書きに対し5万円の罰金を条例で定めたとして、5万円の罰金を払っても落書き自体が消えるものではありません。
それでは、落書きの原因者が判明した場合、本人が落書きを消すまで反復して課金を行うことはどうでしょう?
結論から言うと、その手法を選択することはできません。
この場合、その課金が義務履行のための「執行罰」としての性格を持つものになるからです。
行政上の義務履行の確保は、「代執行」を原則とし、それ以外は「法律」で定めることとされているからです(代執行法1条)。
なお、現在のところ唯一「執行罰」が定められている砂防法の規定(36条)も、一般的には、改正漏れと解されています。
20: くすのき
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2017/02/21 11:43:14
法が社会のルールである限りは、自治体という限られた区域の中だけで「やってはいけないこと」を罰則などで担保することには、原理的な制約があることを自覚しなければなりませんね。
1件の空き家を撤去させるためだけに罰則付きの条例を制定したり、町の中には、ホテルを一切、建築させないという条例を設けたり・・・。
その意味で、条例のパブコメは住民以外の意見も積極的に反映させるべきでしょうね。
21: ぷよぷよ
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2017/02/22 23:59:43
Message body
>1件の空き家を撤去させるためだけに
権利の制限は、「公共の福祉」との比較の上で判断されなければいけません。
具体的な相性が1件である場合、それが潜在する行政課題が顕在化した事例なのか、それともそうでないのかの判断が必要でしょう。
22: くすのき
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2017/03/03 11:09:34
実効性確保の手法の正しさは、その手法自体ではなく、確保しようとしている内容にかかかっているのだと考えます。
政策法務研修などでは、政策の内容が所与として、正しいという前提で手法の研究・勉強をしている感もありますね。そこが課題だと思います。
今月のまとめ
2017/4/7
原則として、規制行政における実効性の確保は、罰則による間接的な強制のほか、行政代執行に限定されます(行政代執行法1条)。これは、「代執行」 「執行罰」「直接強制」を定めていた旧行政執行法が、過去に濫用されることが少なくなかったことの反省によるものです。また、行政上の義務履行のために 民事訴訟を提起することは否定されています(平成14年7月9日最高裁判決)。
このように自治体における実効性確保の手法は限られていることから、行政運営における違反を発見する能力や違反に対応できる感度を高めることも大切で あるいう指摘もあります。
今回の議論の終わりには、実効性を確保すべき政策自体の妥当性についてこそ留意すべきという指摘もありました。規制や実効性の確保などは、その対象や 手法が適当か、政策の立案に際しては十分に注意を払っていきましょう。