(新)行政不服審査法
2014/10/01
住民は、行政処分(国や自治体からの一方的な行為。措置命令、不許可など)に不服がある場合にはどうすればよいのでしょうか?
行政処分をした市町村長など(以下「処分庁」といいます。)に苦情を申し立てるという方法もありますが、法的手段としては、大きく二つがあります。
ひとつは行政事件訴訟法に基づいて裁判所に訴訟を提起する方法で、もう一つは行政不服審査法に基づいて処分庁などに対して不服を申し立てる方法です。
どちらも、主に行政処分の取消し(なかったことにすること)を求めるものですが、前者が裁判所に出廷する手間と訴訟費用がかかるのに対し、不服申立書を 提出するだけで済み手数料も不要です。
実際、平成21年度に提起された行政事件訴訟が約4千件である一方で、国・地方公共団体を合わせた不服申立ては約4万件となっていて行政不服審査法がは るかに活用されています(ただし、実際に違法な行政処分が取り消され、申立人が救済される割合は、裁判よりも少ないと考えられます。これは、裁判所のよ うな第三者ではなく、行政処分をした処分庁やその上級庁が審査することからくる限界です。)。
そして、今年、この行政不服審査法が全部改正され、これまでの手続が大幅に変わることになりました(全部改正後の新行政不服審査法の施行日は平成28年 4月1日になるとと予想されます。)。
例えば、これまで、不服申立ては、行政処分をした処分庁に対して不服を申し立てる「異議申立て」と処分庁以外の者に対して不服を申し立てる「審査請求」 とに分かれていました。
ところが、新行政不服審査法では「審査請求」に一元化されます。
その他にも、再調査の請求、審理員による審理手続、審査会(第三者機関)への諮問手続不服申立期間の延長、標準審理期間の設定など、盛りだくさんの改正 となっています。では、今回は、新行政不服審査法に基づく不服申立手続について議論しましょう。
1: くすのき
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2014/10/07 16:05:37
不服申立てには「審査請求」と「異議申立て」がありますよね。
従来は、処分庁に再考を促すのが「異議申立て」、処分庁の上級行政庁(自治体においては、基本的には存在しない。県知事や大臣は上級庁ではない。)に行うのが審査請求でしたよね。
今回の法改正で、「審査請求」だけになったそうですが、上の図を見ると改正後の審査請求は、審理員や審理機関が設けられたものの、現在の異議申立てと基本的には変わらないように見えるのですが・・・。
名前が変わっただけなのですか?
どのような改正の狙いがあるのですか?
2: 北法研 パピコ
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2014/10/08 18:57:38
改正の概要には、使いやすさの向上、公正性の向上、国民の救済手段の充実、拡充などと書いてあります。私も仕事で大変関わりのあるところですので興味があります。
そのうち処分書の教示を変更しなくてはならなくなりますね。
3: bottom
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2014/10/13 23:41:01
図を見ると、今回の行政不服審査法の改正では、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済という目的のうち、「簡易迅速」性を弱め、公正性を優先した感じですね。
異議申立てと審査請求を合わせて、新しい審査請求にしたというのは、異議申立てや審査請求が出された後の手続(弁明書の有無など)を、揃えたというだけで、どこに審査請求をするのかといった点には、基本的に変更がなく、これまで通りのようですね。
4: 北法研 パピコ
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2014/10/16 23:02:55
お教えてください。
審理員のかたはどなたがなるのですか?
5: jichiemon
- 2014/10/18 21:39:25 資格とか必要なのですか?
6: bottom
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2014/10/19 22:03:33
この新しい制度は、よくも悪くも審理員がキーパーソンになりそうですね。
条文を読む限りは資格は必要なさそうですが、それなりのポスト(課長級?課長補佐級?)あたりが想定されているようですね。
ただ、それなりのポストだからといって、法務関係や不服申立制度についての知識がない場合は、審理員意見書が作れるのかどうか。ちょっと厳しいでしょうね。。。
7: 北法研 パピコ
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2014/10/20 19:17:16
bottomさんのおっしゃるとおりです。かなり難しい業務になりそうですね。
特に小規模自治体や一部事務組合などは・・・
審理員の指名ですが、例えばA市消防局が行った許認可処分(市長権限)について、審理員の指名を処分を行ったA市消防局から指名(処分に関わった者意外から指名)するのか、A市総務局から指名するのかでメリット、デメリットはありますか?
個人的には、技術的な許認可処分では、処分庁以外の職員は意見書の作成等難しいと思いますけどいかがでしょうか?
8: bottom
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2014/10/21 00:00:43
今回の制度改正では、審理員は、処分庁である市長(実際には担当課)と、審査請求人との対審構造におけるジャッジメンみたいな位置付けになるのではないかと思います。
つまり、処分庁から弁明書を貰って、審査請求人からそれに対する反論書を貰って、いろいろ調査もして、審理員意見書を書くことになると思われます。
なので、争点が余程の専門的な内容でない限り、キチンとした法的素養と実務経験のある職員であれば、対応可能だと思います。
ただ、確かに、そのような職員を一定数、小規模自治体で確保するのは難しいかもしれません。
とはいえ、小規模自治体ではそれほど審査請求もないのでは、という気がしないでもありませんが・・・。
9: 北法研 パピコ
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2014/10/21 22:52:14
わかりやすいご解説ありがとうございます。改正後の情景が浮かんできました。
弁明書と反論書から法的争点を整理して審理員意見書を作成ならば、よほどのものでないかぎり技術的な審査も可能かもですね。
となると審理員は総務の法制担当者が中立性からも適任でしょうか?
これ以上仕事が増えても大変だとは思いますが。
10: bottom
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2014/10/23 23:51:10
そうですね。総務の法制担当者でも構わないとは思うのですが、ただ、事案によっては、その担当者が、原処分に関与している(問題事案であるため事前に法務相談を受けて原処分の起案に関与している)場合がありえるので、その場合は、審理員にしないようにする必要があるのかなと思います。
また、審査請求と同時、あるいは裁決後に訴訟が提起されることも想定されるのですが、その場合には、その事案については、総務の法制担当者を指定代理人にすることもマズイ気がします(中立性確保の点で)。
なので、総務の法制担当者を審理員にするとしても、いろいろ留保条件があることに注意が必要ではないでしょうか。
11: 北法研 パピコ
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2014/10/25 23:34:18
審理員の話ばかりで申し訳ありませんが、例えば教育委員会がした処分への審査請求に対して、総務の法制担当者が審理員となることはできないのでしょうか?
違う執行機関のした処分(教育委員会)について市長部局の総務の法制担当者は審理員になれますか。
自治体によっては、任期付の弁護士さん(総務の法制課所属)にお願いするとのお話も聞いていますので・・・
12: bottom
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2014/10/27 23:51:43
新行政不服審査法9条1項で、「地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十八条の四第一項に規定する委員会若しくは委員又は同条第三項に規定する機関」が審査庁の場合、つまり、行政委員会(教育委員会、人事委員会、農業委員会等)や裁決権を有する附属機関が審査庁となる場合には、審理員による審理は適用されないとされています。
なので、教育委員会がした処分に対して市長が審査庁となる場合、具体的には、分担金等の徴収に関する処分についての審査請求や行政財産を使用する権利に関する処分についての審査請求などの場合が該当になると思います。
そして、その場合には、審査庁は市長ですので、総務の法制担当者は当然審理員になれると思います。
13: 北法研 パピコ
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2014/10/28 22:34:38
すみません。ちゃんと条文を読まないといけなかったですね。
ありがとうございます。
ところで審査会ですが、個人情報保護審査会の活用も可能といわれておりますが
問題はありますか?
問題がないようであれば全国的に広まりそうな気がしますけど・・・
14: bottom
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2014/11/01 01:17:05
条例に根拠のある処分については、条例で定めることにより、審理員制度を適用しないことができます。
しかし、情報公開・個人情報保護審査会を、新行政不服審査法で設置が求められている第三者機関に位置づけるということになると、非開示決定に対する異議申立てなどについて、審理員制度を適用することになると思います。
情報公開条例・個人情報保護条例に基づく処分に対する異議申立てに対するこれまでの決定について、公正性に問題があると考えている場合には、審理員制度を導入する=情報公開・個人情報保護審査会と新行政不服審査法の第三者機関を統合する、ことが適当だと思いますが、そうでない場合は、統合することにあまりメリットはないように感じますが・・・。
どうでしょう?
15: 北法研 パピコ
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2014/11/04 18:48:10
すみません。小規模自治体なら費用等の関係で個人情報保護審査会に
兼ねさせるのかなと・・・
ご指摘のとおり兼ねたばかりに審理員制度を適用しなくてはならなくなる
デメリットも出てきそうです。
そもそも個人情報保護審査会が新行政不服審査法の第三者機関にふさわしいかから
良く考えないといけないですね。
今月のまとめ
2014/12/2
今回は、新行政不服審査法について議論しました。法律の施行は、再来年(平成28年)4月1日と見込まれていることから、具体的なことは、これ からという自治体も多いでしょう。
しかし、法律の施行の時点、つまり、来年度中に、行政不服審査会を立ち上げ、審理員候補者名簿を作成し、必要な事務処理要綱を定め、教示文を改 正し、職員への周知を終えておく必要があります。
ただ、新規の審査請求が毎年1、000件を超える自治体もあれば、0件の自治体もあるように、自治体によって、審査請求の数に偏差が大きいことから、 具体的な作業や制度設計は、一律ではないでしょう。
つまり、法改正への万全の対応は欠かせませんが、これまでの不服申立ての頻度等も考えて、効率よく準備を進めることも肝要です。
さらに、過去長期間にわたって、審査請求がない(また今後も見込みが少ない)自治体については、審査事務の委託や審査会の共同設置といったこと を検討することも考えられます。
その場合には、他の自治体との調整が必要になることから、早い時期からの対応が必要になります。
その他にも細かなことですが実務的には、次に掲げるような事項について検討を進める必要があるでしょう。
・審査請求の窓口をどうするか(集約するか各課に分散するか)
・標準審理期間の設定及びその公表をどうするか
・行政不服審査会と情報公開・個人情報保護審査会との関係をどうするか(統合するか否か)
・行政不服審査会の委員構成、定数及び人選基準をどうするか
・行政不服審査会事務局をどこに配置するか
・審理員をどのように確保するのか(庁内の適任者を属人的に確保するか、充て職とするか、あるいは、弁護士資格者を任期付職員として確保するか)
・審理員のポストをどの程度のものとするか(課長クラスか課長補佐クラスか)
・審理員をどこに配置するか(各部局に置くのか、総務部局に置くのか、あるいは全く別の部署に置くのか)
また、行政不服審査会設置条例の制定、手数料条例の改正、「不服申立て」を「審査請求」に改めるなどの関係条例・規則の改正といった例規の整備 や不服申立期間の延長、審査請求先の変更等に伴う教示文の改正を行う必要があります。