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自治体コモンズとは

債権管理条例

2018/6/29

 近年、少なくない自治体で「債権管理条例」が制定されています(東京都新宿区、葛飾区、愛知県豊田市など)。債権管理条例は、自治体による債権の放棄を前提と して、債権の管理をどのように徹底するか(管理台帳の整備、徴収計画の策定など)について定められているものが多いようです。債権を含む「権利の放棄」は議決事 項(自治法96条1項10号)とされているため、たとえ軽微な債権であってもこれを放棄するには、個別の議決が必要となります。しかし、現実には、そのような権利放 棄を個別の議決対象とすることは、技術的な困難さがあります。そのため、債権管理条例は、あらかじめ条例という形式によって権利放棄の対象を明らかにしたうえで、 首長限りでの権利放棄を可能とするとともに、自治体における適切な債権管理を行おうとする意図から制定されています。    今回は、債権管理条例の形式や内容を含め、そのあり方について意見を交換しましょう。

1: ぷよぷよ

2018/07/04 18:11:13  冒頭の文章のとおり、「債権管理条例」は債権の放棄を主な内容とします。自治体によっては、「債権放棄に関する条例」の名称で、放棄に関してのみ定めるものがあります(北海道旭川市など)。
 債権管理条例について論点を挙げるとするならば、以下の3点が挙げられるのではないでしょうか
・債権放棄を「条例」という形式で行うことの妥当性
・債権放棄の対象をどのように規定するかという、政策的・技術的な検討
・放棄以外の債権管理について定める各規定の内容と妥当性の検討
 上記は便宜的な分類ですが、もちろん、これらは相互に関係があります。

2: ぷよぷよ

2018/07/05 21:15:16  いくつかの事例を挙げましょう。 

・旭川市私法上の債権の放棄に関する条例
http://www1.city.asahikawa.hokkaido.jp/files/soumu_soumu/d1w_reiki/418901010049000000MH/418901010049000000MH/418901010049000000MH.html
 その内容は4条の構成で、実質的な規定は2条(市長に係る債権放棄と公営企業管理者に係る債権放棄)です。

・横浜市の私債権の管理に関する条例
http://www.city.yokohama.lg.jp/ex/reiki/reiki_honbun/g202RG00001653.html
 条例名に「管理」が入るように、市長・公営企業管理者の債権管理に関する責務、台帳の整備等について規定しています。

3: ぷよぷよ

2018/07/05 21:17:05  自治体の議会は「議決機関」として、「立法機関」である国会に比して、行政運営に幅広い権限を持ちます。自治法96条1項10号に基づき権利の放棄について議決を要するのは、そのような意図が背景にあります。
 ただし、自治法96条1項10号は「条例に特別の定めがある場合を除くほか」と規定しており、権利の放棄に関する条例を定めることを許容していると読めます。
 経済的価値のない・徴収の見込みがない債権については、「怠る事実」として住民監査請求の対象とならないよう十分に考慮した上で、放棄に関する条例を制定することはできそうです。

4: ぷよぷよ

2018/07/10 21:51:11 それでは、放棄の対象となる債権の対象について、どのように規定すべきでしょうか。
 田中孝男先生(九州大学)は、以下のように自治体の規定を分類されています(『条例づくりのための政策法務』2010年(第一法規))。

(1)自治法231条の3第1項の分担金等及び自治法の「債権」が適用されないもの(同法240条4項)を除く債権とするもの(新宿区など)
(2)私法上の原因に基づいて発生する債権(江戸川区ほか)とするもの
(3)強制徴収により徴収する債権を除く債権とするもの(比較的多数)

5: ぷよぷよ

2018/07/10 21:51:39  しかしながら、田中先生は、上記の分類に続けて、それぞれ以下の指摘をされています。
----------------------------------------
 第一に分担金等をすべて除くタイプは、貸付金債権の免除が中心的に想定されているものと思われるが、前記民法が適用される(中略)水道事業、病院の診療報酬などに滞納がある自治体には不向きな規定である。
 第二に、条例等に基づいて発生する私法上の債権について適用されないと読める規定である。入居決定を行政処分形式で行う公営住宅がある自治体には不向きであろう。また、公法上の債権で民法の規定が適用されることとなるものについても適用できないこととなる。
 第三に、強制徴収権の有無を債権の公法・私法性を画する基準とするのは、比較的分かりやすいが、強制徴収権の存在と自治法236条の適用される公債権とは、論理的につながるものではない。(引用者注:病院の診療報酬に民法が適用される旨の判例を挙げた上で)例えば保育料(児童福祉法56条によって強制徴収ができる)も、民間の託児施設に預けたときの利用料金と本質的に変わらないものとして、時効については、民法が適用されることになるかもしれない。
(同書100頁~101頁)
----------------------------------------
 3番目で取りあげられている保育料は、法改正により、現在では公立保育園と私立保育園との料金の違いがより法的に類似しているといえます。

6: くすのき

2018/07/13 12:56:27 基本的には、真摯に、債権を個別列挙すべきであると考えます。
債権放棄の規定に「解釈の余地」は与えるべきではないと思います。

7: ぷよぷよ

2018/07/13 18:01:38  コメントありがとうございます。
 くすのきさんのご指摘は、
・時効期間を経過した水道料金
・時効期間を経過した公営住宅使用料
のように具体的な列記を行うべしということでしょうか。

8: ぷよぷよ

2018/07/13 18:02:50  また、
・破産免責を受けた債権
と規定することも否定的なお考えでしょうか。

9: オリン

2018/07/16 18:45:02 第一に分担金等をすべて除くタイプは、民法が適用される(中略)水道事業、病院の診療報酬などに滞納がある自治体には不向きな規定である。

 民法が適用される債権は、分担金等から除かれるので、この規定の仕方でいいのでは。

 第三に、強制徴収権の有無を債権の公法・私法性を画する基準とするのは、比較的分かりやすいが、強制徴収権の存在と自治法236条の適用される公債権とは、論理的につながるものではない。

 条文は分かれていますが、論理的につながっているのでは、もともと条文は一つですし。強制徴収の可否を基準としたのは、公法、私法ではなく滞納処分の執行停止の可否により対象債権を分けたかっただけなのでは。

民間の託児施設に預けたときの利用料金と本質的に変わらないものとして、時効については、民法が適用されることになるかもしれない。

 まだ判決見たことがないので、あくまでも可能性の話ですよね。判決が出る前に、先回りして解釈する必要性はないのではないでしょうか。そもそも強制徴収は、行政の便宜を最大限考慮したもので、民事執行債権と本質的に違うのではないでしょうか。

 田中教授の著作を拝見したことがないので、申し訳ないのですが、著書ではどのような債権を放棄の対象にすべきと言われているのでしょうか。条例を作るとの参考とさせていただきたいです。

 3つ前の方の御発言のように、個別列挙すべきとお考えなのでしょうか。

10: ぷよぷよ

2018/07/21 21:52:07  オリンさま、コメントありがとうございます。

>>第一に分担金等をすべて除くタイプは、民法が適用される(中略)水道事業、病院の診療報酬などに滞納がある自治体には不向きな規定である。
>民法が適用される債権は、分担金等から除かれるので、この規定の仕方でいいのでは。

 田中先生もご指摘のように「水道事業」「病院の診療報酬」は、債権放棄の守備範囲としない、と政策決定するのであれば、明確な線引きであると思います。

>>第三に、強制徴収権の有無を債権の公法・私法性を画する基準とするのは、比較的分かりやすいが、強制徴収権の存在と自治法236条の適用される公債権とは、論理的につながるものではない。
>強制徴収の可否を基準としたのは、公法、私法ではなく滞納処分の執行停止の可否により対象債権を分けたかっただけなのでは。

 なるほど。ただ、水道料金のように「公の施設の使用料」としての概念が覆ってしまえば、強制徴収の可否も想定が変わってしまいます。

>3つ前の方の御発言のように、個別列挙すべきとお考えなのでしょうか。

 この点、くすのきさんが
>債権放棄の規定に「解釈の余地」は与えるべきではないと思います。
と指摘される点もあり、私も逡巡するところです。

11: neoki

2018/07/21 22:59:04 強制徴収の可否は、公の施設がどうであろうと、解釈の余地はありません。必ず、条文に滞納処分の例によるや、国税や市町村税の例によると謳われています。時効について民法適用するものを強制徴収できるように立法することは、技術的には可能ですが、前回の自治法改正では論外とされていました。しかし、田中教授も指摘されている通り、某省の所管の保育料は、タブーを犯しているかも知れませんね。

債権を個別列挙するのは難しいのでは。百や2百じゃきかないのでは。それとも、債券放棄を希望する債権が出るごとに、規則や条例を変えていくということでしょうかね。個別列挙する場合も、結局、時効について解釈した結果を列挙せざるをえないのでは。

強制徴収債権を除くが一番いいと思います。ないとは思いますが、たとえ、強制徴収債権の時効について民法適用されたとしても、質問検査権がありますので、条例によらなくても滞納処分の執行停止を経て債権放棄が可能ですから。

12: ぷよぷよ

2018/07/30 21:37:20 neokiさん、コメントありがとうございます。

ご指摘のとおり、対象債権を個別に列記すると膨大な量になることが考えられます。
「使い勝手」の点から考えると、包括的な規定をしたい要望はあるでしょうね。

そのような要請を踏まえてか、対象の債権として「金銭の給付を目的とする市の権利のうち、時効の援用を要するもの」と規定する自治体もあります。
ただ、「時効の援用を要する」か否かは誰が判断するの? という点が気がかりです。少なくとも議決事項の適否を議会側が判断できる基準が明示されるべきであるような気がします。

※ご参考まで、自治法180条に基づく長の専決に関してなので一概に比較はできませんが、東京都が応訴した訴訟事件関係の和解のすべてを知事の専決処分とした議会の議決が違法とされた判決があります(東京高裁H13.8.27)。

13: neoki

2018/08/08 06:42:34 個別に列挙しても、しなくても、最後は解釈に頼らざるをえませんよね。

条例による債権放棄の上限金額を規定している場合もあるみたいです。

今月のまとめ

2018/9/28

今回は債権管理条例について議論しました。 債権管理条例は、議会の議決を要せず債権の放棄を行おうとする点に重きが置かれているものです。その対象とすべき債権について議論を行うことは、
・それぞれの債権の法的な性格は何か
・二元代表制の下で、議決の対象はどうあるか
を念頭に置かなければいけないことが分かってきたように思えます。 どのような債権を対象にするかは、条例を定めようとする自治体ごとの政策判断になるわけですが、これらについて説明ができるように、内部でしっかり議論を行うことが必要です。 なお、そもそも債権は自治体の財産であるわけですから(地方自治法237条1項)、債権管理条例が制定されていなくても、地方自治法及び同法施行令に基づき適正に管理されなければいけないことは言うまでもありません。

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